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    茨城県教育図書館・情報センターの“おすすめ図書”

         ※画像・タイトルをクリックすると書評がお読みいただけます。
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    戦争まで 加藤 陽子 朝日出版社  谷口 公
  すぐわかる!できる!アクティブ・ラーニング 西川 純 学陽書房 豊田 龍彦
  先生のためのアンガーマネージメント
 対応が難しい児童・生徒に巻き込まれないために
本田 恵子 ほんの森出版 図書館
運営委員
 
  突破論 平井 伯昌 日経BP社 図書館
運営委員
  道をひらく 松下 幸之助 PHP研究所 図書館
運営委員
  教育改革はアメリカの失敗を追いかける
−学力テスト、小中一貫教育、学校統廃合の全体像−
山本 由美 花伝社 谷口 公
  それでも、日本人は「戦争」を選んだ 加藤 陽子 朝日出版社  谷口 公
    若い先生必読!学校の作法 学校の元気研究会 学事出版 図書館
運営委員
  13歳からの平和教育 浅井 基文 かもがわ出版 図書館
運営委員
    通常学級のユニバーサルデザインZERO 阿倍 利彦
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部
東洋館出版社 図書館
運営委員
   
子供の貧困
 −日本の不公平を考える


子どもの貧困U
 −解決策を考える
阿部 彩


阿部 彩
岩波書店


岩波書店
 谷口 公  
 
 
 『教育とは何か』


いじめ問題をどう克服するか
大田堯


尾木直樹
岩波書店


岩波書店
 谷口 公 
  ほんとうの家族支援とは
 −子どものまわりにいるすべての先生方へ
上原文 鈴木出版 図書館
運営委員
  発達障害の子どもを二次障害から守る!あったか絆づくり
 −問題行動を防ぐ!ほめ方・しかり方,かかわり方
岩佐嘉彦
松久眞美
明治図書 図書館
運営委員
    教育問題はなぜまちがって語られるのか?
 − 「わかったつもり」からの脱却
広田照幸
伊藤茂樹
日本図書センター
図書館
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 子ども理解
 −臨床教育学の試み


子どもの声を社会へ
 −子どもオンブズの挑戦
田中孝彦


桜井智恵子
岩波書店


岩波書店
 谷口 公 
   
教育の豊かさ 学校のチカラ
 −分かち合いの教室へ


尾木ママの「脱いじめ」論
 −子どもたちを守るために大人に伝えたいこと
瀬川正仁


尾木直樹
岩波書店


PHP研究所
谷口 公 
  学校見聞録 - 学びの共同体の実践 佐藤学 小学館 谷口 公
    大丈夫だよ。YOU ARE OK!
  ―自己肯定感をはぐくむ教育を―
本間信治 清風堂書店 図書館
運営委員
    言語活用力を高める説明文の指導
  低学年・中学年・高学年
金子愼一
瀬川榮志
明治図書 図書館
運営委員
    学研まんがでよくわかるシリーズ
 働く人たちのひみつ
  ― みんなを守る労働組合―
オフィス・イディオム(編) 学研パブリッシング
図書館
運営委員
    フィンランドの教育力
 −なぜ、PISAで学力世界一になったのか
リッカ・パッカラ 学習研究社 図書館
運営委員
    英語の発想・日本語の発想 外山滋比古 日本放送出版協会 図書館
運営委員
    『格差を越える中学校』
 「荒れ」の克服と学力向上
小林光彦 解放出版社 図書館
運営委員
    メンタルヘルス・ハンドブック
 教師のストレス総チェック
中島一憲
   (編著)
ぎょうせい 図書館
運営委員
    誰のための「教育再生」か 藤田英典(編) 岩波書店 輕部利男
    イギリス「教育改革」の教訓
 「教育の市場化」は子どものためにならない
阿部菜穂子(著) 岩波書店 輕部利男
    学校を変える
 −浜之郷小学校の5年間−
大瀬敏昭(著者代表)
佐藤学(監修)
小学館 輕部利男
    夜のピクニック

恩田陸 新潮社  藤井千春
    伝記 ベートーヴェン
  −大作曲家の生涯と作品−

葛西英昭 新風舎 著書紹介
    古典への招待
 −例えば、アリストテレス
           『ニコマコス倫理学』−

高田三郎(訳) 岩波書店 本田敏明
    茨城の子
  茨城県国民教育研究所
  設立三十周年記念文集


茨城県国民教育研究所国語研究委員会 茨城県国民教育研究所 菊地邦夫
    井上ひさしの
  子どもにつたえる日本国憲法
井上ひさし(著)
いわさきちひろ(絵)
講談社 五藤義行
    子どもの学びと自己形成 富山市立堀川小学校 明治図書 藤井千春
    競争やめたら学力世界一
   フィンランド教育の成功
福田誠治 朝日新聞社 輕部利男
    競争より「共創」の教育改革を
  子どもと教師と保護者・地域住民の
              共同参画を求めて
尾木直樹 学陽書房 輕部利男
    脳のなかの倫理
  脳倫理学序説

マイケル・S・ガザニガ
訳:梶山あゆみ
岩波書店 二宮利江
    学力を育てる 志水宏吉 岩波書店 藤井千春
    フィンランドに学ぶ教育と学力 庄井良信
中嶋 博
明石書店 本田敏明
    茨城県自然紀行
 −茨城の小さな旅−

山崎睦男 東*書房 今橋盛勝
    ブックレット「競争しなくても世界一」
              フィンランドの教育
福田誠治 アドバンテージサーバー 輕部利男
    読むと元気がわいてくる 子ども学入門
  「子どもを捉え育てる」力量を高める
藤井千春 明治図書 輕部利男
    地域をともにつくる子どもたち
 子どもの瞳が輝く授業
 茨城県長倉小学校での2年間の実践記録
大木勝司
鈴木正気
藤井千春
ルック 輕部利男





     おすすめ図書 2017/6
   
 戦争まで
 
                  加藤 陽子〔著〕
                          朝日出版社
               
     戦争の現実を知る世代が減っていくにつれて、決して戦争を繰り返してはいけないという、かつては揺るぎないものとしてあった共通の認識が薄れつつあり、安倍首相は、中国や北朝鮮を念頭に「せまりくる危機」を繰り返し訴えながら、自衛隊の存在理由を憲法9条に書き込む改憲を2020年に施行すると表明している。
 本書の中で著者は、「日本国憲法の中の平和主義は、先の大戦への反省と深く結びつき、日本の社会で生み出されてきたもの」と述べ、「戦争の結果、書き換えられたこの日本国憲法を、自らの手で書き換えようとするのであれば、論理的な必然性からいって、1945年8月15日に終わった戦争について、再度、しっかりと見なおす必要がある」としている。
 そして、本書は歴史学者である加藤陽子が27名の中高生たちを相手に行った授業の記録であり、質疑応答する形をとりながら、日本を戦争に導いた満州事変・日独伊三国同盟・日米開戦という大きな「選択」をする際に、相手側と自分たちの何をあえて見ようとしなかったかを、丹念に資料を読みときながら説いている。
 例えば、満州事変後のリットン報告書は、最初から中国側を喜ばすものと報道され、それを前提として議論と交渉が進められた。「リットン報告書には、交渉が始まった後、日本側が有利に展開できる条件が、実のところいっぱい書かれていた」のだが、日本はこれを拒んだ。満州は日露戦争の戦果という思い込みのもと、正確な報道がないままに国論は極端に走った。
 日独伊三国同盟・日米開戦の場合は、更に複雑。三者三様に思惑が異なっていた。日本政府内の意見の対立は一切報道されず、事態は速やかに変わる。同盟に大義はない。その時々の各国の利害があるのみ。ドイツとイタリアは日本の海軍力でアメリカを牽制したかった。日本はドイツが勝った勢いに乗じて東南アジアや南太平洋の英仏オランダの植民地を自分のものにしたかった。大東亜共栄圏の「大」の字には勢力圏拡大の意図が込められていた。同盟に大義はない。その時々の各国の利害があるのみ。
 『戦争まで』で印象的なのは、相手国の内情まで含めて情報を充分に持った政権担当者と、自らの利権のために圧力をかける集団(死の商人・陸海軍とか)、何も知らないままに感情的に動く大衆とそれを誘導する無責任なジャーナリズム−これらの力が入りまじってことを決めてゆくというメカニズムである。
 今日これらの戦前期日本の失敗を批判することはそれほど困難なことではなさそうに見える。しかしながら実は、現代(日本国憲法9条の1項、2項をそのまま残し、その上で集団的自衛権を行使する自衛隊の保持を明文化する「改憲」を2020年に施行したいと安倍首相が表明している)を生きる私たちは、後世の人々からなぜあの時の日本人はこんな選択をしてしまったのか、歴史の教訓を生かせなかったのか、といった批判を受けないとは限らないのだ。その時代の空気、見せかけだけの強い意見、その時代の勢いだけに流されてしまうと道を大きく踏み外してしまう。今私たちはまさにそういった未来を構築するための選択を迫られている。

 書評 谷口 公(館長)

     
     おすすめ図書 2016/6
   
 すぐわかる!できる!アクティブ・ラーニング
 
             西川 純〔著〕
                     学陽書房
               
     文部科学省は「アクティブ・ラーニング」の定義を次のように発表しています。「教員による一方的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。(中略)発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である」

 ここまで読むと,おや?と思われる方も多いのではないでしょうか。既に学校現場では,「総合的な学習」等で取り入れられている手法だからです。何が違うのでしょうか。著者の西川純氏は次のように主張します。「文科省は,大学入試を変えることによってアクティブ・ラーニングを徹底するという,今までにやったことのないことをやろうとしている。大学入試を変えることで,小中高を変えようとしている。」

 「アクティブ・ラーニング」は,新しい言葉です。その良し悪しについては,今後の展開を見守っていく他はありません。しかし今,教育の世界で最も興味・関心の高いキーワードの一つだということに異論をはさむ方はいないでしょう。なぜ,今「アクティブ・ラーニング」なのか,どのように「アクティブ・ラーニング」を実践したらよいのか,疑問や悩みを抱えている方への入門書として,本書は最適です。

 書評 豊田 龍彦
 (教文部長)
 
     おすすめ図書 2016/5
   
 先生のためのアンガーマネージメント
 対応が難しい児童・生徒に巻き込まれないために

 
             本田 恵子〔著〕
                  かもがわ出版
               
     ここ数年,学校現場では,暴力やいじめ,発達障害のある子どもへの対応で,余裕を失っているのが現状だと思います。そして,教職員には,次々と起こる問題に冷静な対応が求められています
 この本は,アンガーマネージメントの理論編に加え、教職員が遭遇しやすいストレスフルな場面の事例に沿って、具体的な対応を紹介しています。
 本書を読むと「現場対応はこうすればいいのか」と気づき,「これなら自分にもできそうだ」と感じることができます。気になる子の指導に困った時,子どもへの対応が安心してできる内容となっています。

※アンガーマネジメント
 自分の怒りの感情やイライラをコントロールして上手く付き合う心理技術のこと


 書評 図書館運営委員

 
     おすすめ図書 2016/5
   
 突破論
 
             平井 伯昌〔著〕
                  日経BP社
               
     この本は,北島康介選手等の五輪メダリストを育ててきた競泳日本代表ヘッドコーチ平井氏の指導論が書かれています。一人ひとりの特性を見抜き,その選手に合ったコミュニケーションを取り,信頼を得てから技術指導をすることが結果につながっていったそうです。
 教職員のみなさんは,日々,学習指導,部活動や生徒指導等で多忙を極め,教育実践に悩んでいることと思います。平井氏にも指導者として辛い時期があり,選手を怒鳴ってしまったり,選手がやる気を出すのをただ待つだけだったりしたこともあったそうです。「子どもたちの特性を見極め,意欲を引き出したい」「自分の可能性を伸ばしたい」そんなみなさんが一歩前に進むためのヒントになると思います。


 書評 図書館運営委員

 
     おすすめ図書 2016/5
   
 道をひらく
 
             松下 幸之助〔著〕
                  PHP研究所
               
     この本は,松下氏が連載してきた短文の中から121篇を選んでまとめたものです。松下氏は仕事や家庭生活で悩みを抱えた時,「『心配またよし』であり,『心配や憂いは新しくものを考え出す一つの転機』である」とポジティブに考えています。筆者も,現場で悩んだ時に,この言葉に励まされました。
 若い方もベテランの方も教育現場で壁にぶつかった時,「困難にぶつかったときに」「自信を失ったときに」の項を読むと立ち直るきっかけを与えてくれると思います。


 書評 図書館運営委員

 
     おすすめ図書 2015/12
   
 教育改革はアメリカの失敗を追いかける
   −学力テスト、小中一貫教育、学校統廃合の全体像−

 
                  山本 由美〔著〕
                          花伝社
               
     この国の教育は、今戦後教育改革と真逆の方向へ向かおうとしている。教育再生実行会議(第2次安倍内閣の私的諮問機関)が第1次から第6次(2013年、2014年、そして2015年)にわたって提言を公表し、それが中教審への諮問、審議、そして答申を経て拙速に国会で法制化、法改正へという異常な事態となったからである。
 第1次提言のいじめ対策推進法、第2次提言の教育委員会制度の改正、つづく第3次提言では、高等教育の改革で、学長権限の拡大などによる大学自治の空洞化と財界の望む人材養成に道が開かれようとしている。さらに第4次提言の高校・大学の接続、そして第5次提言の6・3・3制の見直しへと続き、安倍政権は、戦後教育改革の見直しともいえる学制改革に着手しようとしている。これらの改革がめざしているのは、新自由主義教育改革による公教育の序列的再編を手段とした、財界が求めるグローバル人材づくりに他ならない。そして第6次提言では、トップダウンでおりてくるさまざまな施策を下支えする「学校参加」、地域の保守的再編につながりかねない全学校のコミュニティスクール化が提言されている。
 2012年の大津いじめ自殺事件の報道の中で高まった教育委員会や学校の「無責任で隠蔽的な体質」への批判が、いじめ対策、「道徳教育」の強化、そして教育委員会「改革」にも最大限に利用されてきた。しかし、トップダウンのいじめ対策は教師を多忙化させ管理を強化させるものになりかねず、現在拡大中の「ゼロトレランス」(寛容ゼロ)のきびしい生徒指導を拡大させる危険性がある。この「ゼロトレランス」は、アメリカにおいてはグローバル人材の「非エリート」対策の政策として位置づけられている。すなわち、エリートを支える大量の低所得サービス労働養成とそこから外れる「犯罪予備軍」対策に用いられるのである。
 また、教育委員会における首長の権限強化は、親や住民の下からの要求が教育行政に反映される道を極端に狭め、一部の人間が決めた「大綱」によるトップダウンの施策を徹底化していく。トップダウンが貫徹するような条件が整ったら、まず、教科書検定のための「方針」作成、学力テスト結果公表、そして公教育の序列的再編を招く学校統廃合が行われることが懸念される。本書は、学力テスト・小中一貫・学校統廃合といった施策の最新動向と、その背後にある新自由主義の潮流をわかりやすく解き明かす。
 日本は競争をあおる前期新自由主義の段階から、停滞期を経て、グローバル資本に資源を集中するために国家が発動する後期新自由主義の段階に入っている、と著者はいう。そして、後期新自由主義教育改革を次のように定義している。「グローバル企業が求める人材養成のために、国家がグローバリズムにおけるエリート・非エリートの早期選別を目的に、学校制度を複線化し教育内容を統制するものである。エリート養成に財源を集中するために他のコスト削減を徹底し、改革を正当化するために全国学テ、結果公表、学校・自治体間競争などが利用される」。
 本書の第4、5章でアメリカの教育改革をみると、後期新自由主義の段階に入っているアメリカの改革が、日本の教育改革の未来をみるうえで示唆的である。
 日本がアメリカの改革動向を追いかけるのは今に始まったことではない。免許更新制や成果主義給与の導入もそうだった。アメリカで教育改革の失敗が見直され、改革の振り子が逆に動き始める頃になって、アメリカの改革を追いかける日本。アメリカの教訓を生かせというのが日本の改革の担い手に向けたメッセージだろう。著者が今年2度にわたり渡米した際の最新情報も含め、全米最先端の教育改革に向き合うグローバルシティのシカゴの人々の息づかいが手に取るように感じられる筆致は冴えている。

 書評 谷口 公(館長)

     
     おすすめ図書 2015/7
   
 それでも、日本人は「戦争」を選んだ
 
                  加藤 陽子〔著〕
                          朝日出版社
               
     今年は戦後70年の節目にあたるので、安倍首相が夏に発表する談話の中身に注目が集まっている。5月初めには、欧米で活動する日本研究者187名が声明を発表し、戦後日本の平和の歩みは全世界からの祝福に値するものの、いわゆる「慰安婦」をめぐる歴史問題では、日本と東アジア諸国間に火種が残されているとした。時を同じくして5月26日から国会では、戦後日本の平和の歩みを大きく転換させる安全保障関連法案が「平和安全法制」という羊の仮面を付けて登場し、議論されている。
 これら現実世界に合わせて本書を読むと、近代日本がくりかえし選んできた戦争のリアルが読みとれる。そして、過去としっかり向き合うことができれば、過去の過ちと向き合うこともできる。過去の過ちと向き合う方が、近隣諸国が日本の平和主義や人道支援に信頼感を増し、この国の大きな発展につながると教えてくれている。

 書評 谷口 公(館長)

 
     おすすめ図書 2015/5
   
 若い先生必読!学校の作法
 
                学校の元気研究会〔著〕
                          学事出版
               
     本書第1章の表題「学校は3K(きつい・きたない・危険)職場と心得るべし!」に、まずドキッとさせられます。確かに、教職員の仕事は激務です。つまづいたり、燃え尽きそうになったり、やめたくなったりすることもあるでしょう。しかし、やりがいのある素晴らしい仕事であることは間違いありません。この本では、新人教職員やこれから教職員になろうとしている方に、できるだけカルチャーショックを和らげ、無事、学校に軟着陸できるよう、学校の事情や必要な作法・心得等をわかりやすく説明しています。若い方だけでなく、中堅・ベテランの方にもおすすめします。若手教職員の指導で悩んだとき、自分の働き方を見直したいとき、初心を思い出したいときなど、ぜひ手にとってみてください。

 書評 図書館運営委員

 
     おすすめ図書 2015/5
   
 13歳からの平和教育
 
             浅井 基文〔著〕
                  かもがわ出版
               
     この本は、広島の中国新聞が出している『ちゅーピー子ども新聞』に連載されていたものを、1冊にまとめたものです。おじいさんと子どもたちの対話形式で、「平和の大切さ」を考えていく内容になっています。「日本国憲法に込められている3つの思いって何?」と、子どもたちは問いかけます。おじいさんは、次のように回答します。一つ目は「もう二度と戦争を起こしてはいけない」という思い。二つ目は「原爆の体験を二度と繰り返してはならない」という思い。三つ目は「力による平和から、力によらない平和へ」という思いだと。今年は戦後70年。この機会に、改めて「平和」と「憲法」について考えてみませんか。


 書評 図書館運営委員

 
     おすすめ図書 2015/5
   
 通常学級のユニバーサルデザインZERO
 
   阿倍利彦・授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部〔著〕
                                  東洋館出版社
               
     あなたの学校、学級に次のような児童生徒はいませんか?本書では「気になる子を取り巻く子たち4タイプ」として、「問題行動を真似する子」「わざと刺激する子」「“影”でコントロールする子」「クラスのトラブルを楽しむ子」を挙げています。読みすすめていくうちに、筆者は思わず「あるある」とうなずいてしまいました。他にも、「活躍できないとすねてしまう子」「マイナスの言葉をすぐ口にする子」「周囲を同調させてしまう子」など、30のケースについて、対応のポイントを説明しています。「やんちゃな、ワイルドな子どもたちに日々向き合って、一生懸命奮闘されている先生方にぜひ役立てていただきたい」と著者は述べています。気になる子の対応に困ったとき、ページを開いてみてください。

 書評 図書館運営委員

 
     おすすめ図書 2014/11
     
子どもの貧困 −日本の不公平を考える
                             阿部 彩〔著〕  岩波書店

子どもの貧困U −解決策を考える

                             阿部 彩〔著〕 岩波書店

 




   この国では、平均的な年収の半分を下回る世帯で生活する17歳以下の子どもの割合を示す「子どもの貧困率」が、2012年に16.3%と過去最悪となった。困窮家庭や親の養育を受けられない子どもは、所得やモノだけでなく、さまざまな苦境にさらされ、希望さえも奪われている現実がある。一人ひとりの子どもにとって、貧困はどのような悲しみや生きづらさとして暮らしの中にあるのだろうか。
 それは子どもの貧困率16.3%という平均値だけでなく、母子世帯の貧困率は、OECD(経済協力開発機構)やほかのデータを用いた推計においても、60%〜70%の間で推移している現実がある。貧困は現れ方が集中的でもある。

 「子どもの貧困 −日本の不公平を考える」の特徴は、まず著者の地道な実証的データの集積と解析の研究成果をコンパクトに提示した点にある。著者のこれまでの学術的研究を基盤にして、子どもの貧困を社会として許すべきではない現実として明示したものである。
 つぎに貧困を所得水準だけでなく、ライフチャンスや子どもにとっての必需品が奪われている現実に着目し提示していることである。同時に子どもの必需品に関する市民の支持の低さも著者の調査結果から明らかにされている。貧困観の貧困の実態を浮かび上がらせている。
 さらに所得再分配(税控除と社会保障給付)の前と後で貧困率が増加する唯一の国となっている現状を踏まえて「子どもの数を増やすだけでなく、幸せな子どもを増やすことを目標とする政策」に転換する必要を提示している。

 「子どもの貧困U −解決策を考える」は、前著『子どもの貧困 −日本の不公平を考える』で示された子どもの貧困状況の解決策について、国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して、政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理している。
 前著が発行された5年後の2013年6月、衆議院、参議院ともに全会一致で「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が可決され、翌14年1月に施行された。同年8月、安倍晋三政権は同法に基づき「子供の貧困対策大綱」を閣議決定した。「日本の将来を担う子供たちは国の一番の宝」と、対策の重要性を強調する大綱は、子どもの貧困率16.3%(2012年)という深刻な現実を打開するのに見合った中身とはとてもいえない。
 国連は、子どもの経験する貧困は、子どもの権利条約に明記されている「すべての権利の否定」と強く警告し、各国に克服を求めている。OECD加盟33カ国中でも最悪水準にある日本でこそ、子どもの貧困解消は喫緊の課題である。生半可な対策では、親から子への貧困の連鎖を断ち切り、「幸せな子ども」を増やすことはできない。本書は、社会政策の立案・実施をめざす際に指針となる最適の本である。


 書評 谷口 公
(館長)




 
     おすすめ図書 2014/6
     
教育とは何か
                             大田 堯〔著〕  岩波書店

いじめ問題をどう克服するか
                             尾木 直樹〔著〕 岩波書店

 




   「校内暴力」「学級崩壊」「不登校」、そして今またいじめの問題が深刻化している。いじめを苦に子どもが自ら命を落とす事件が起こるたびに、どう克服すべきか、さまざまな意見で世の中が沸き立ってきた。その際に心すべき大切な視点は経験主義ではない。子どもを科学的総合的にとらえ、いかに臨床的解決をめざすかである。

 『教育とは何か』 は、この視点を明確にしている書である。教育に何ができるのか。子どもと若者の未来に強い関心を抱く著者が、祖先からの子育ての知恵をも振り返りつつ現代における教育の意味と役割を問い直す。これからの「教育改革は、子どもの発達と教育とにかかわるすべての関係者が、出番を保障され、相互に協力し合う方向ですすめ」「そのため、どんなささやかな試みであっても、地域や学校ですすめられている子育て・教育をめぐる新しい協力関係、公共性をつくり出そうとする努力が、教育改革によって激励され、援助されるべきで、抑圧されては」ならないと述べ、教化、説得を教育と思い違える国家権力や政治家は元より学校文化や教職員にも自戒を促し、「教」と「育」を逆転させる発想に立ち返る必要性を説く。そして1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」は、「子どもたちを含めて、あらゆる人びとがそれぞれ自分の持ち味を引き出し合い、お互いにあてにしあてにされ合う平等な社会の創造、つまり『自己実現』と『完全参加』の原理によって人間社会をたてなおし、人間と自然との共存の秩序を地球上に創造しようとするもの」であり「世界は実際そういう方向をめざして胎動を始めている」ことが日々の動きの中から読みとれると熱く期待を寄せる。

2冊目の『いじめ問題をどう克服するか』は、今日のいじめの背景を分析、いじめを防止するために学校、家庭、社会がすべきことを具体的に提言する。第1章では、いじめが、これまで日本社会で、どのように問題化されてきたのか、文部省・文科省の対応はどうだったのか、などについて歴史的に振り返る。第2章では、今日のいじめの特徴について分析する。第3章では、2012年の大津事件を具体的な事例を取り上げて検証する。第4章では、いじめの深刻化を食い止めるために、国や地域、学校でどういう取り組
みが行われているのかを考察する。第5章では、いじめ問題を克服するために何が必要かを具体的に提言する。著者は「いじめ問題に向き合うことを契機に、私たち大人社会を改めて点検し、子どもたちを未来を切り拓くパートナーと位置づけ、その知恵や力を借りながら、豊かな社会を築いていくことが大切なのです」と訴える。


 書評 谷口 公
(館長)




 
    おすすめ図書 2014/5
   
 ほんとうの家族支援とは
  -子どものまわりにいるすべての先生方へ
-

 
                          上原 文〔著〕
                                  鈴木出版
               
     「子どもに接する職業の人で,家族との連携に困っていない人は今,いないのではないでしょうか。」と,著者の上原文さんは語り始めます。確かに,現場の教職員にとって,今,一番難しい課題と言えるかもしれません。可愛いイラストに惹かれながら読み進めていくうちに,家族との連携のあり方について考え,自分の子育てについて振り返る機会をもつことができます。書籍や映画からの名言・名場面についてのコラムも充実。
副題にある通り,「子どものまわりにいるすべての先生方」に読んでいただきたい一冊です。

 書評 図書館運営委員





    おすすめ図書 2014/5
   
 発達障害の子どもを二次障害から守る!
  あったか絆づくり
   -問題行動を防ぐ!ほめ方・しかり方,かかわり方
-

 
                          岩佐嘉彦 松久眞美〔著〕
                                  明治図書
               
     この本は,発達障害の子どもを二次障害から守るために,弁護士と教師のコラボレーションで書かれた,いまだかつてないユニークな著書です。特別支援の必要な子どもと関わる機会は,年々増加する傾向にあります。実践例が満載。子どもへのかかわり方の例が,わかりやすく図解説明されており,すぐに使えるワークシート等も掲載されています。子どものほめ方・しかり方で悩んだ経験のある方には,特におすすめの一冊です。

 書評 図書館運営委員





    おすすめ図書 2014/5
   
 教育問題はなぜまちがって語られるのか?
  -「わかったつもり」からの脱却
-

 
                          広田照幸 伊藤茂樹〔著〕
                                  日本図書センター
               
     <この本は,いわば「へそまがりのすすめ」のような本です。「教育問題」と聞くと,すぐに「大変だ」「深刻だ」「急いで対策を」というふうな議論になってしまいそうですね。でも,それはあわてすぎ。考えるべき点がいっぱいある。この本を読んでくださったみなさんは,「ちょっとまてよ」というふうな感性をもつことができるようになっていると思います。> 〜本書「あとがき」より〜
 この文章にピンときたあなた。教育問題について,一言もの申したいあなた。教育に対する誤った報道に怒りを感じているあなた。ぜひ一度,手にとってみてください


 書評 図書館運営委員





 
     おすすめ図書 2013/12
     
子ども理解 −臨床教育学の試み
                             田中 孝彦〔著〕  岩波書店

子どもの声を社会へ −子どもオンブズの挑戦
                             桜井 智恵子〔著〕 岩波書店

 




   子ども理解 - 臨床教育学の試み
        田中 孝彦【著】岩波書店【刊】

 政府・文部科学省は、この国の子どもたちの状態を「生きる力の衰弱」「秩序意識・規範意識の希薄化」「学力・学習意欲の低下」と否定的に断定する子ども観を前提に「教育改革」を推進している。社会・学校の当然の秩序を守れない、規範意識の希薄な子どもたちが出現しているから、強い力で守るよう要求し、規範意識を持たせる厳しい教育が必要である。他者との関係を結ぶ能力が不足しているから、「コミュニケーション能力」を鍛えねばならない。学力は競争のなかでこそ伸びるものであるから、子どもを厳しい競争的環境において鍛えねばならない。読み、書き、算は有無を言わさぬ反復訓練によって、刻み込んで教えねばならないといった断定の仕方である。乱暴で単純な「厳しさ」と「競争」を強調する傾向は、為政者の側からだけではなく、教師たちにも広がってきている。
 だが、教育は、子どもたち一人ひとりの生存・成長・学習を支える営みである。その子どもたちの状態を外側からこれほどダメになっていると一方的に決めつけておいて、「教育改革」によって子どもたちに「生きる力」を吹き込もう、「秩序意識・規範意識」「コミュニケーション能力」「学力」を刻み込もうとしてみても、そんなことはそもそも不可能なのではないか。そのような発想で、血の通った子育てや教育の改革を構想することが果たしてできるのか。
 著者は、こうした疑問を抱き続けながら、一人ひとりの子どもと直接に対話をする機会をできるだけ持つようにして、彼らが自らの生活と人生をどう感じ、考えているかを聴きとる調査を臨床教育学の基礎的作業として重ねてきている。本書では、そうした子どもたちの声を聞くことを通じて、子どもたちが育っていく過程で直面している問題と、彼らの生存・成長を支える援助・教育の基本的な課題を次のように整理しながら、小手先のハウ・ツーを探すのではなく、人間発達の原点に立ち戻って考えることを指し示している。
 第1に、子どもたちの情動・感情の発達を受け止め、意味ある反応を返す。
 第2に、子どもたちの友だち関係づくりを支えていく。
 第3に、子どもたちの性をめぐる不安や問いにつき合う親・教師・大人が、彼らの前に現れることが必要である。
 第4に、若者たちの職業をめぐる不安を共に考えることが重要になっている。
 第5に、子どもたちの問いに応える学習の内容と機会を、社会と学校につくり出していく。
 本書には、さらに、「子ども理解」をキーワードに「地域に根ざし、世界と向き合う」「教師像の問い直し」「教師教育改革」など、ありうべき教育の方向性と希望が指し示されている。

子どもの声を社会へ - 子どもオンブズの挑戦
       桜井 智恵子【著】岩波書店【刊】

 兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」は、子どもの小さな声に耳を傾け、関係者をつなぎ問題の解決を図り、時には制度改善にまでつなげる。大学教員で教育学分野のオンブズパーソンである著者は、この希有な公的制度の中で、子どもたちの息詰まる状況をつぶさに目にして、その問題解決の思想を紹介し、問題の核心を明らかにして、これからの社会の可能性を提案する。「子どもの気持ちを無条件に受容する大人の存在があると、それは市民社会の質を保つためになかなかよい。聞かれにくい子どもの声は、実は社会にとって大事なことをつぶやいてくれていることがある。忙しい大人たちが見落とし見失っている社会の側面を、そっと教えてくれることもある。」と著者は言う。子どもの人権オンブズパーソンとは、「子どもの声をまず聞く大人の存在を保障した制度」なのだ。著者は、さらに「子どもが発した声は、私たちの暮らし方や働き方がつくっている構造を変えてほしいという要望でもある。まず成長ありきの、人を分断する経済成長の考え方を、持続可能な社会への柔軟な発想へと転換してほしいという叫びなのである。それは、子どもからの社会的異議申立てなのだ」と述べている。本書は、小さな声を社会へつなぐ手引書である。



 書評 谷口 公
(館長)




 
     おすすめ図書 2013/6
   
教育の豊かさ 学校のチカラ−分かち合いの教室へ
                             瀬川 正仁〔著〕 岩波書店

尾木ママの「脱いじめ」論−子どもたちを守るために大人に伝えたいこと
                             尾木 直樹〔著〕 PHP研究所             
 




   現在のこの国の多くの子どもたちは、人と人との関係を切り裂き敵対させる力が強く働いているこの社会に生まれ落ちて、生育の過程でさまざまな「傷」を負い、「いらだち」「むかつき」「不安」「恐れ」といった生活感情を溜めている。それらは、なにかのきっかけがあると、自分や他人を傷つけるような仕方で無方向に爆発してしまうほどに溜まっている。同時に、多くの普通の子どもたちが、日常生活の中で、「いらだち」「むかつき」「不安」「恐れ」を溜めながら、「毎日をどう過ごせばよいのか」「このままで大人になっていけるのか」「なんのために学校へ行くのか」「「競争が幸福につながるのか」「自分が大人として生きる地域、日本や世界、地球はどうなっているだろうか」という根本的な問いを抱かざるを得なくなってもいる。
 この間、この国の「教育改革」は、子どもたちの状態を「生きる力の衰弱」「秩序意識・規範意識の希薄化」「学力・学習意欲の低下」と否定的に断定し、「厳しさ(厳罰主義の徹底・道徳教育の強化・学習指導要領の押しつけなど)」と「競争(学力テスト・学校評価・教員評価・学校選択制などの成果主義)」を軸に推進されてきた。このような乱暴で単純な子どもたちへの対応は、子どもたちが求めているものとは明らかにすれちがっている。

 『教育の豊かさ 学校のチカラ−分かち合いの教室へ』では、文部科学省が「学校」と認めている教育現場で、すべての子どもの学ぶ権利の保障と、その学びの質の向上にとりくむ様子が紹介されている。「学校」の中には、刑務所の中の学校や健康学園、あるいは夜間中学校など、特別な事情を抱える人たちのための教育現場もある。こうした学校では、国が定めた学習指導要領どおりの授業は成り立たない。その結果、学校も教師も目の前にいる児童生徒たちに何が必要で、自分たちに何ができるのか、学びの質と平等の同時追求のビジョンをもって、それを実現するため奮闘努力している。そこからは、日頃見過ごされがちな「教育」のもつ豊かさや、「学校」が本来持っているはずの力が伝わってくる。

 『尾木ママの「脱いじめ」論』は、子どもを守るための大人への提案である。
 今のいじめは心を深く傷つけるほど陰湿で残忍である。しかも今日の被害者が明日の加害者になるなど、被害者と加害者の立場が流動的、かつ容易に入れ替わる。どうすれば子どもを守れるのだろうか。本書は「いじめの現状」「いじめを取り巻く教育現場の病」「どんな子がいじめをするのか」「いじめからわが子を全力で守る」「本気でいじめをなくすための愛とロマンの提言」など、著者の長年の経験に基づく提案である。
 いじめは、子どもたちが自らの抱える不安(生きづらさ)や自己肯定感を取り戻そうとする気持ちの屈折したかたちの表れでもある。子どもたちの不安や葛藤が、いじめとなって表れた段階から丁寧に関わり、いじめを子どもたち自身の手で解決していく力を育てる日常的な取り組みが必要である。


 書評 谷口 公
(館長)




     おすすめ図書 2012/12
   
学校見聞録
  ―学びの共同体の実践―

 
                                 佐藤 学〔著〕
                                      小学館              
     近代の学校は、国民国家の統合と産業主義社会の形成を推進力として成立してきたのだが、冷戦構造崩壊後のグローバリゼーションとポスト産業主義社会の進展によって、その二つの基盤は突き崩され、新しい時代に対応した学校〈21世紀型の学校〉への転換が進行している。

 
ベルリンの壁崩壊後の各国において、「21世紀型の学校」は、どのように構想され政策化されてきたのだろうか。その展開は各国諸地域で一様ではなく、複雑で多様な展開を遂げている。しかし、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国の先進諸国のナショナル・カリキュラムをとおして見ると、次の4点が共通した「21世紀型の学校」の成立基盤となっている。
 
(1)知識基盤社会への対応
 (2)多文化共生社会への対応
 (3)格差リスク社会への対応
 (4)成熟した市民社会への対応

 
「21世紀型の学校」は、さらに「質(quality)と平等(equality)の同時追求を根本原理として構成されている。ポスト産業主義社会に突入している先進諸国の教育改革においては、「質と平等の同時追求」が教育改革の成否を規定する根本原理となっている。この根本原理を端的に示したのが、OECDによって2000年から3年ごとに実施されてきた国際学力調査(PISA調査)であった。PISA調査によって世界トップレベルと評価されたフィンランド、カナダ、オーストラリアなどの諸国における教育の成功は、「質と平等の同時追求」によるものである。

 
著者は、「行動する研究者」として、全国各地の幼稚園、小学校、中学校、高校、特別支援学校を訪問し、教師と共同して教室と学校を内側から改革する挑戦を行ってきた。教室においては「活動的で協同的で反省的な学び」の実現、校内には教師同士が育ち合う「同僚性」の構築、学校と地域の連携においては保護者が授業の創造に参加する「学習参加」の実践を推進し、「学びの共同体」という学校の未来像を提起し、内側から学校改革を推進している。その実践の数々(教育現場の動態)が詳細に記述されているのが「学校見聞録−学びの共同体の実践」である。


 書評 谷口 公
(館長)




     おすすめ図書 2012/5
   
大丈夫だよ。YOU ARE OK!
  ―自己肯定感をはぐくむ教育を―

 
                               本間 信治〔著〕
                                    清風堂書店
               
     一生懸命生きている人たちと,伸びようとしている子どもたちへのエールがちりばめられています。「心が渇いている時」「心の栄養が足りなくなった時」・・・おすすめです。

 「大丈夫だよ。あなたの生き方は根本のところで間違っていない。YOU ARE OK!」「現代に生まれ,今を生きていることにはわけがある。意味がある。自分にしかできない役割がある。自分がいることが社会にとってすばらしいことなのだ」・・・励まされる言葉が本書にはちりばめられています。

 親が自分の子を信頼するための様々な言葉と勇気について,「相互監視社会」から「相互助け合い社会」へと変革していく大切さ,夢を語れる教職員,苦しさを抱えながら精一杯生きているあなたへ伝えたいこと・・・どこからでも読める本です。子どもたちのために,日々心を砕き,一生懸命生きている保護者,教職員に励ましと賞賛を送りたいという筆書の温かい思いが伝わる一冊です。

「大丈夫だよ。YOU ARE OK!」

目の前の子どもたちに,悩んでいる同僚に,そして倒れそうな自分に,エールを送りたくなります。


 書評 図書館運営委員




     おすすめ図書 2012/5
   
言語活用力を高める説明文の指導
  低学年・中学年・高学年《全3巻》
 
                金子愼一・瀬川榮志〔著〕
                         明治図書

               
     説明文の学習が苦手な子どもたちも,学習を通して新しい世界との出会いがあればおもしろいはずです。接続語・指示語・段落分け・文章構成・要点・要約・要旨などといったことが前面に出てくるだけになると,「おもしろくない」ということになってしまいます。未知を知る喜びを味わわせたい,知的感動を味わわせたいという願いが授業者にあっても,そういった力の育成だけに偏ってしまう授業ではおもしろみを感じないということになってしまうのです。筆者は,「児童の読みが成立するとき,児童にとってその学習はおもしろいし,同時に基礎・基本の力,言語活用力も身につくことになるのだということを肝に銘じたい」と述べています。本著は,主として「実生活で生きて働き,各教科等の学習の基本となる国語の能力を身につけること」,言い換えると,実生活に生きて働く言語活用力となるようにそれぞれの段階における指導のステップのあり方を考究した著でもあります。そのため,それぞれの段階におけるステップワークシートの研究・開発に力点を置いたものとなっています。


 書評 図書館運営委員





    おすすめ図書 2012/5
   
学研まんがでよくわかるシリーズ
 「働く人たちのひみつ」
  -みんなを守る労働組合
-

 
                          オフィス・イディオム〔編〕
                                  学研パブリッシング
               
     子どもたちが楽しく読み通すことができる学研「まんがでよくわかるシリーズ」の「仕事のひみつ編」です。ポンコツロボの「ポコ」が小学校6年生の「達也」に「働くってどういうこと?」「労働組合って何?」「労働組合の歴史は?」等を,わかりやすくかつ楽しく伝えていく物語仕立ての内容となっています。
まんが形式で楽しみながら読み進めていくことができ,写真やイラストを豊富に掲載しているので資料としての価値もあります。ほとんどの子どもたちが,いつかは労働者として社会に出ることを考えれば,労働者の権利やワークルールも学習していくことが必要です。50冊ありますので,授業等で活用できます。
(小学校高学年〜中学生向け)


 書評 図書館運営委員




    おすすめ図書 2009/6
   
フィンランドの教育力
 −なぜ、PISAで学力世界一になったのか

 
                             リッカ・パッカラ〔著〕
                                    学習研究社
               
      経済協力開発機構(0ECD)の国際学習到達度調査(PISA2000)において,総合的に1位となった北欧の小さな国「フィンランド」。学力が世界一と認められ,世界の注目を集めた。そして,成績のばらつきが少なく,学校間の格差や落ちこぼれも極端に少ないという。それは,数学的リテラシーを中心としたPISA2003でも,科学的リテラシーを重点的に調査したPISA2006でも,変わらなかった。

 そのフィンランドで10年間教師をしていたリッカ先生が,フィンランドの教育の現状を語ってくれたのがこの本である。その中から,フィンランドの子どもたちがなぜ学力世界一なのか,その理由が見えてくる。

 資源も少なく,林業以外にこれといった産業もなかったフィンランドは,「教育に投資することがフィンランドの未来を切り開いていく」という理念のもと,29歳の若さで就任したヘイノネン教育大臣が1994年から大胆な教育改革を進めた。

 格差のない教育を実現するため,幼稚園から大学院まで教育費は無料で,教材費や給食費もかからない。その上,通学に必要な交通費や下宿した場合の住宅補助費も支給される。

 また,改革の中核として,教師になる資格が大学卒業から大学院で修士号の取得に引き上げられたことにより,教師のレベルが上がった。そして,教師が子どもたちの将来なりたい職業のトップにランクされている。

 そして,特に注目すべき点は,政府や地方自治体からのガイドラインはあるが,学校や一人の教師に「教育現場の裁量権」が認められたことである。子どもたちに教える内容や教え方を教師が自分で決められるというものだ。この信頼が教師のモチベーションになった。そのため,オーダーメイド教育が可能となり子ども中心の教育が推し進められた。子どもたちの力を伸ばすにはどうすればいいのか教師は自ら知恵をしぼることによって,ユニークで工夫を凝らした授業になった。教師が自分の仕事を楽しんで教えていれば,子どもも楽しく学び成果も上がるというわけだ。その上,一クラスの人数も30人以下で,日本より少なく,個に応じたきめ細かな指導を展開している。

 そのほかにも,担任教師を助けるための学内外の専門家によるサポートチームの充実や図書館の利用率世界一などたくさんのフィンランドの教育の現状が述べられている。

 国のしっかりとした予算のもとで,ゆきとどいた教育環境を実現したフィンランドの教育支出は,先進国でも最高水準(対GDP6.0%)である。それに比べ,日本は3.5%にとどまり,OECD諸国の中で最低水準である。この日本の教育の現状を理解した上で読んでいただけると,日本の今後の進むべき道も見えてくるだろう。

 書評 図書館運営委員




    おすすめ図書 2009/3
   
英語の発想・日本語の発想
 
                          外山滋比古〔著〕
                               日本放送出版協会
               
     日本人の英語習得の妨げになっている要因の一つが,英語と日本語の発想の違いであるといわれている。この本は,その発想の違いを,5部構成のエッセイにより,知ることができる。

 第T部は,文章の構造の違いについて述べられている。

 第U部は,単語レベルでの英語の特性が論じられている。日本語なら動詞を中心に言い表すところを英語では名詞に重点をおいた表現にする問題,人称,ものの数え方,擬声語などの違いが指摘されている。

 第V部は,表現の様式,スタイルに関するのが取り上げられている。敬語,ことばの調子,ことわざの理論,肯定形の否定などから,
「何を述べるか」だけではなく,「いかに述べるか」に視点をおき論じられている。

 第W部は,生活の次元にもとづく英語の発想が,日本語といかなる点において相違するかに焦点があてられている。意味の逆転,サインとハンコ,seven-ish という時間,贈りものの理論,他人の体に触れることの文化の違いなどから,文化の差からくる実例が述べられている。

 第X部は,論理とヒューマーについての文章が収められている。

 このエッセイは,NHKのラジオテキストなどに連載されていたものであり,1回ごとの完結なので,読みやすい。文法的な話題から,ローマ数字やアルファベット,漢字の構造上からくる違い,日常の生活で見られる文化の違いなど,具体的な例が数多く挙げれており,日頃何気なく使っている日本語や日本の習慣に関して,その特色を再発見することが多い。最後まで興味を持って読み進めることができる。

 書評 図書館運営委員





    おすすめ図書 2008/11
   
格差を越える中学校』 -「荒れ」の克服と学力向上-
 
                               小林 光彦〔著〕
                                       解放出版社
            
     教職員の評価が取りざたされている今日,「学校の荒れ」に対して地道な努力をしている現場の教職員への正当な評価はない。
 「荒れ」問題は単に生徒指導問題ではない。「学力問題」「家庭問題」「格差問題」であり「社会問題」である。いわば現在の状況を凝縮したものが「荒れ」状況に次から次へと登場してきている。(携帯電話,ブログなどのサイバーブリング,子ども向け化粧品の万引き,かつてはテレビ,バイク,ゲーム機など)
 
 この本は「荒れ」を克服する手だてはある,という立場で書かれている。その手だてを考える材料として「学力向上」「生徒指導」「学校経営」の三つの観点で論じている。その中で,特に印象的だったのは次に述べる3点である。
まず一つは,「学力向上」の基本ベースは授業づくり。このことは,基礎学力習得のための学習システムを実際にN中で実施している事例から分かりやすく知ることができる。3つのポイントを挙げて,読みやすく工夫されている。また,補習の効果的な方法なども具体的に述べられている。
 次の一つは,「授業崩壊」。「授業の不成立」が「荒れ」につながっていくのはメカニズムとして知られている。それを「ツートン・カラーからグラデーションへ」という興味がわく表現で語っているのでとても分かりやすく感じられた。
 最後の一つは,何といっても学校経営。教員の「指導力」を鋭く分析して,分かりやすく述べているのが印象的だった。これは,分析の大切さ・必要さと,「フィードバック」の日常的な継続の度合いが増してきている現実を再認識した瞬間でもあった。

 この本は現場の先生が書いているので,大変実践的であり分かりやすい。この本をとおして,各学校でアレンジして,生かせるところを活用していけばよいのではないかと考える。また,この本のコンセプトは「荒れを克服しながら,学力向上をはかるにはどうすればよいか」というものになっている。

 最後に,チームワークをしっかりとして取り組んでいる学校がほとんどだと思う。原点は,情報をしっかりと分析して,対策を立て,いかに効果的なものを選択して実践するかにかかっているかだと思う。困難な学校教育に日々とりくんでおられる教職員の方々に、「ノウハウ的啓発書」として読んでみてはいかがでしょう。


 書評 図書館運営委員





    おすすめ図書 2008/9
   
メンタルヘルス・ハンドブック『教師のストレス総チェック』
 
                               中島一憲〔編著〕
                                       ぎょうせい
            
     夏休みが終わって,また忙しい二学期が始まった。夏休み中に,心も身体もリフレッシュして鋭気を養えればよいが,研修,出張,部活動,面談・・・生徒は休みでも,教職員は連日出勤。夏休みなどないのも同然,どこで,鋭気を養ったらよいのか。日頃の溜まったストレスが爆発寸前である!
 本書は,そんな教職員のこころの健康を保つために,日頃感じられているストレスによる心身の変調を具体的に洗いだし,学校現場と医療専門家,双方の視点からその理解や対応法を示そうとするものである。
四章から構成されていて,T「教師のメンタルヘルス」は,ストレス状況やこころの病気の現状についての解説,U「ストレスチェック」は,症状の特徴や原因の分析,対応法についての解説,V「ストレス対策」は,さらに詳しい対応法について,W「職員室のストレス・マネージメント」は,ストレス対処への様々な取り組みについて解説したものである。
簡単に自分の心の状態をチェックでき,原因の分析から対応法,対策とわかりやすい構成になっている。何より,読んでいて,重くならないのがいい。

  最近このようなことはありませんか?
    夜中に筋肉痛のために目が覚めることがある。
    意見が二つに分かれたが,自分では決断できない。
    同僚の日常会話のなかに入れない。
    失敗をいつまでもくよくよ考えてしまう。
   「時間がない」が口癖である。
    職員室に居づらく,一人になる時間がほしい。
                             U「ストレスチェック」より


 書評 図書館運営委員



    おすすめ図書 2008/2
   
誰のための「教育再生」か
 
              藤田英典〔編〕
                    岩波書店
               
     「改正」教育基本法下で進む教育再生会議の「教育改革」。
 「安倍政権が残した『教育再生』改革は、結局のところ日本の教育を混乱させ、学校から生気を失わせていくだけだったのではないか、このまま放置していけば、日本の教育や学校はこれまで以上にゆがみ、変質していくのではないか」との危機意識に立ち、教育学者、教育法学者、憲法学者、弁護士が共同し現在の教育政策のベースにある「教育再生」改革の全体像と問題点を明らかにすると共に批判し、あるべき教育改革に向けての提言をまとめた1冊である。
 この本の構成と著者を見ていただければ、おおよその概要が見えると考え、以下掲載させていただく。

T 教育改革は、いま       藤田英典(国際基督教大学・教育社会学)

U 学校教育はどう変えられようとしているか
 1 全国一斉学力テスト     尾木直樹(教育評論家)
 2 教師に対する管理と統制  佐藤 学(東京大学・教育方法)
 3 寛容なき厳罰主義(ゼロトレーランス)
                    喜多明人(早稲田大学・教育法学)
 4 学校選択制   藤田英典
 5 心の支配    中川 明(弁護士)
             西原博史(早稲田大学・憲法学)

V 提言 私たちが求める教育改革とは

 全国一斉学力調査に象徴される新自由主義に立った競争主義を軸として、子どものみならず、学校、教職員の評価が行われ、選択の名の下に格差が生み出され、その一方で国家道徳が学校教育にとどまらず、家庭・地域にも押しつけられかねない現実を丁寧に分析し、どう教育改革を進めていくかの施策をまとめている。
 直ちに中止すべき施策としては、@全国一斉学力テストA教員免許更新制B教師の階層化CゼロトレーランスD国家による教育統制の強化があげられ、見直すべき法律や施策として@06年教育基本法A教育の市場化・学校選択制があげられている。
 この1冊をお読みいただき、困難な学校教育に日々取り組んでおられる教職員の方々に、これからさらに進められようとしている競争主義、国家主義的政策が何をもたらすのか、また、どう対応すべきかを一緒に考えていただければと思う。


 書評 輕部利男(茨城民研研究員)




    おすすめ図書 2007/9
   


イギリス「教育改革」の教訓
 −「教育の市場化」は子どものためにならない−

 
                             阿部菜穂子〔著〕
                                        岩波書店
               


     阿部菜穂子さんは、イギリスに在住する国際ジャーナリストで教育問題を中心に執筆活動をされている。理論的な研究ばかりでなくイギリスで実際にお子さんを育てる体験も含め幅広い視野からイギリスの教育に精通されている方である。国民教育文化総合研究所の「学力」問題研究会での講演、全国教育研究集会学力問題分科会でのご報告を聞く機会があり、現在の教育動向の中で出版が待たれていた本である。
 日本では、この4月全国一斉学力調査が実施され、この秋には、その結果が報告される。
 この学力テストをめぐっては「子どもの『学力』が分かる」「結果を指導に役立てれば意味がある」などの肯定的意見と「『学力』テストのための教育になる」とりわけ「学校毎の点数が学校評価、さらには学校選択の自由につながることで格差拡大する」ことを危惧する意見がある。既に知られているとおり、安倍首相は「イギリスの教育をモデル」に教育改革を進めることを公言しており、イギリスが採用するナショナル・テスト(統一学力テスト)が、日本の「学力調査」につながっていると考えるのは根拠のないことではない。このような中で、改めてイギリスのナショナル・テストの実際をつかみ日本の全国一斉学力調査のもつ問題を考えていただく上で参考になる一冊である。
 詳細はお読みいただきたいが、サッチャー政権の時に、統一カリキュラムとセットでナショナル・テストが導入され、4つのカリキュラムのキーステージ毎にテストが実施され、学校、自治体毎のテスト成績ランキングやリーグテーブル(全国成績ワースト50などの各種一覧表)が作られ競争があおられた。これが保護者の学校選択権と連動し「優秀校」に入学するため、余裕のある家庭では、引っ越しし不動産価格にまで影響が出ており、所得格差と連動した学校選択が生み出されてきたのである。
 しかし、テスト中心の学習、地域格差の問題が派生する中で、競争を軸にした『教育の市場化」に対する批判が広範に起こっており、既にウェールズはナショナル・テスト廃止を決め、スコットランドにおいても一人ひとりの子どもを育てる評価が目指され、ナショナル・テスト廃止に向かっている。
 この著書では、それらの過程がリアルに描かれており、全国一斉学力調査がどう使われて行くか、現在の競争主義的な教育が何を生み出すか、じっくり考えるために是非ご一読いただきたい


 書評 輕部利男(茨城民研研究員)



    おすすめ図書 2007/7
   


学校を変える
 −浜之郷小学校の5年間−

 
                    大瀬敏昭〔著者代表〕 佐藤学〔監修〕
                                          小学館
               


    「あなたと 私と そして あなたたちと私たちが
   たがいに 心をくだき 学び合う それが 浜之郷小学校の願いです 」

 佐藤学氏の提唱する「学びの共同体」づくりをすすめる茅ヶ崎のパイロットスクール浜之郷小学校が開校して6年目、開校3年目に刊行した「学校を創る」に続いて「学校を変える」が刊行された。改めて「学校は子どもたちが学び育ち合う場所であり、教師たちが専門家として学び合う場所であり、親や市民が学校の教育実践に参加し学び合う場所である」「学びの共同体」としての学校の5年間にわたる実際が報告されている。

 佐藤氏は、最初のプロローグ「学校の奇跡」において「学びの共同体」としての学校を築くためには「全ての教師が教室を開き合い、授業の研究を通して学び合う同僚性」を築き、教室に、職員室に「聴き合う関係とそこから生まれるダイアローグ(会話)の関係」を築き、さらにこれらを支える親や市民が授業に参加し、教師と協力して子どもを育て合う「学習参加の実践を組織する」と述べ、学校づくりの骨格を明らかにする。

 それらはどう具体化されたのだろうか。「システムの改革」の中で浜之郷小学校の「成功の秘密」は「学びの共同体」実現のために「子どもと教師の学び合いを疎外する全ての要素を除去し、学校のあらゆる活動が学びの実現に組織される」ことにあると述べている。その中で特に注目したいのは「教師たちが授業づくりと研修に専念できるように、校務分掌を『一人一役制』にして会議と雑務のほとんどをなくし」「授業の事例研究を学校運営の中」におき「授業の事例研究では指導案は印刷せず、日常の授業を公開」している点である。これらをどう実現したかは、著書をお読みいただきたいが、従来の改革が教育実践を支える「教育システム」を変えなかったところに成功しなかった要因があると分析し、システムの改革の重要性を指摘する。

 実際に学校づくりを行った校長の大瀬敏昭氏は、「子どもだけではなく、教師も、保護者も地域住民もが『学び』を接着剤として集い・・学びを通して子どもが自分を発見し、友だちを再発見」する「学びの共同体」としての創学の理念にたち「学問の価値と学習の意味を再発見して『人生最高の6年間』を生み出すことを目的とした学校」を私たちの願いとして描き出す。そのために、「教育システムを変え」ー「会議と雑務をなく」し、本業率80%が目指されている。

 大瀬校長は「学びは<出会いと対話>による「世界づくり」と「仲間づくり」と「自分づくり」の実践と定義」しているが、その実践を通して教師たちは、自分がつくりあげてきた殻を打ち破り、子どもの主体的な学びを実現していく。そこでは、上手な授業ではなく「自分らしい授業」が求められ、そこに生きがいを見いだす教師の姿が描かれている。

 学力競争が子どもを「学びからの逃走」に一層追い込んでいる現在、改めて学校のあり方を問う一冊としてお勧めしたい。



 書評 輕部利男(茨城民研研究員)




おすすめ図書 2007/5


夜のピクニック
 
                             恩田 陸〔著〕  新潮社



 2004年に第2回本屋大賞を受賞し、第26回吉川英治文学新人賞を受賞した作品である。また昨年秋には映画化されている―映画は、駄作であったが。水戸第一高等学校の伝統、秋の長距離徒歩行事がモデルとなっている。ストーリーには、ミステリー作家の作品らしく、様々な伏線が埋め込まれており、終盤での意外な謎解きへと導かれていく。しかし、序盤から主人公の融の視点と、もう一人の主人公の貴子の視点との間での切り替えが交錯し、簡潔な文体であるだけに、かえってめまぐるしさと落ち着きのなさを感じる。作者の意識的な技巧がやや鼻につく―このことは、恩田陸の他の作品でも同様に感じる。しかし、水戸の街のあの場所、この場所と、また水戸郊外の美しい田園や海岸と、日常的に見慣れた場所の風景と重ね合わせて読むことができる。また、ストーリーは謎解きとして展開されるものの、高校生の友情、恋愛、受験などがテーマとされ、将来に向けて前向きに成長しようという、健康な青春像が描かれている。それだけに、読み進むうちに、純粋に、一途に思い、悩み、素直になれずに意地を張り、また、友情に励まされ、感動していた、高校時代の自分に立ち返っていく。懐かしくも切ない、清らかな感情が呼び起こされる。読み終えた後、心がきれいに洗い流されたような不思議な気持ちになる。県立高校で実施予定の「道徳」の副教材として使用されるというが、高校生が読む作品としてよりは、高校時代を懐かしむ年齢の大人が読む作品として価値がある。大人たちに、忘れてしまっている青春時代の純粋な気持ちに立ち戻らせ、大人としての自分をどのように形成し、今を大人としてどのように生きているかを、問い直させる作品といえる。また、純粋に悩みつつも前向きに成長しようとする青春像から、若者の成長を信頼し、温かく見守ろうという、親や教師として、大らかな気持ちになることができる。恩田陸の作品は、読み手に切ないノスタルジーを呼び起こす。『夜のピクニック』は、自分の過去に甘美な意味を与える、大人のための青春ノスタルジー小説である。


 藤井千春(民研所員・早稲田大学教授)




おすすめ図書 2007/1


伝記 ベートーヴェン
  −大作曲家の生涯と作品−

 
                             葛西 英昭〔著〕  新風舎



 《人間ベートーヴェンを生きる》

 昭和30年代から約50年間、小・中の教科書に全国の鑑賞必修教材として、ベートーヴェンの作品3曲も取り上げられてきました。

 この間、音楽教育も次第に充実し、特製の指導資料として、主要な作曲家の肖像画がほぼ全国的に、音楽室の壁面に掲げられました。

 赤いスカーフを首に巻き、両手に作曲帳と鉛筆を持ち、子供たちがこわい顔といっていたベートーヴェンの肖像画。市販の音楽ノートにも、同じ油彩画が使われていましたから思い出される方も多いのではないでしょうか。

 かつて、大学の講義で「ベートーヴェンの生涯と作品」について伝記等の講読を全員に課した際、感動的なレポートと共に多くの一般学生が、前述のことにも触れていました。

 現在、ベートーヴェンの学問的な研究も進み、多くの新しい見解の論述に出会いますがこれまでの文献を含めて、まだまだ〔こわい顔、変人、短気、等〕のように一枚の肖像画1行の活字による人間像の印象の誤解や無知の記述に、戸惑うことも少なくありません。

 少ない情報による第1印象の理解が深層にファイルされ、固定観念のまま留まっている指導者側の意識に、変容を促したくなります。
 現在、彼には当時の画家たちによる肖像画やスケッチ、石版画、銅版画、胸像等を含め約30種目以上にものぼるとされています。(先に多くの音楽室で見た肖像画は、病気あがりの48歳、画家の依頼に応じた時の作品)

 すさんだ社会や教育の現状に対峙しながら昨年の秋、ベートーヴェンの生きざまをベースにおいて、ささやかではありますが《伝記ベートーヴェン〜大作曲家の生涯と作品〜》と題して著書にまとめ、出版しました。

『ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン』
 この名は生涯にわたって尊敬した祖父がそのままを生き写しに命名したもので、3歳で他界した祖父の愛を心に秘めて、波瀾万丈の人生を強く生きた事やそれを支えた存在が、常に持ち歩いた祖父の肖像画にあった事等に、強い感銘を受けます。

 ベートーヴェンは、貧困、失恋、家族との別れ、そして突然襲う耳の病など、多くの苦難をのりこえて、心のこもった素晴らしい音楽を残しました。時は、フランス革命の不安な社会の中で青春を生きたベートーヴェン。

 常に、自分に厳しく、そして人には心から優しく人情にあふれ、思いやりの深い人でした。家族愛、兄弟愛、友人愛、そして第九にも象徴される人類愛など、広い人間愛には、心を打たれます。3万人近い人々による葬儀の列、人情にあふれた人柄が偲ばれます。この本が、多くの皆さんの「生きる力」を支え、励ますことができればとても嬉しく思います。


 葛西英昭(民研研究協力者・元茨城大学教授)



おすすめ図書 2006/12


古典への招待
 ―例えば、アリストテレス『ニコマコス倫理学』―


                            高田 三郎〔訳〕  岩波書店


 
 いじめや虐待、自殺、教育基本法のやらせ公聴会など教育を取り巻くさまざまな問題が後を絶ちません。いったい日本の教育はどうなってしまったんだろう?と、出口の見えない状況に焦燥感や虚脱感すら感じられる状況です。

 こんな時にこそ、不朽的価値を持つ古典的著作といわれるものに解決の糸口を求めるのはいかがでしょうか。こんな緊急時に古典だ?目の前の問題解決にすぐ効果の挙がるハウツー本をこそ紹介せよ、とお叱りの声が聞こえてきそうです。でも、ちょっと待ってください。もちろんすぐ効く特効薬の存在も大事です。でも、右往左往して問題解決に至らないというのも問題です。古典の持つ不朽的価値の意義というのはまさにそういう揺るぎのない時代を超えたところに存在するのだといえましょう。古典が古典といわれる所以です。温故知新という言葉もあるではないですか。

ここでお勧めしたい古典はアリストテレス『ニコマコス倫理学』(高田三郎訳・岩波文庫・上下巻)です。アリストテレスは形而上学的哲学の大家ですが、形而上学?大学の講義で聞いたような気がするなあという経験や思いがあればそれであなたはすでに古典との対話を始めたことになります。この世界にひとつじっくり、どっぷりとつかってみませんか?

 教師にとって『ニコマコス倫理学』には示唆深い指摘がちりばめられています。例えば、大工や琴弾きという職業の徳(それは立派な家を建てること、立派に琴を弾ずること!)について指摘された件は、教師の徳とは何か(言うまでもないですね)をあらためて気付かせてくれますし、学(エピステーメー)と技術(テクネ)との違いについての指摘は、今日の科学技術と教育実践の関係をどう捉えるべきかについて時代を超えた知的刺激を与えてくれます(今年度教育実践学会の奨励賞をとった西之園晴夫氏(佛教大学)の論文にも引用・指摘があります)。

 もちろん『ニコマコス倫理学』だけが古典ではありません。コメニウスの『大教授学』やルソーの『エミール』、ペスタロッチーの著作の数々などなど、古典だと敬遠しないで学生時代を思い出して読んでみてください。意外と読みやすいのでびっくりしますよ。そして何か視野が拡がったり想いが深くなったと思えるはずです。そういう古典に出会えることを祈念しています!


書評 本田敏明(民研所員・茨城大学)




おすすめ図書 2006/10

茨城の子
 
−茨城県国民教育研究所設立三十周年記念文集−

           編集・発行 茨城県国民教育研究所国語研究委員会
           
 まっとうな子を育てる羅針盤
  −読んでくださる みなさまへ−
    
 この文章を書くために、もう一度、全文章を読みました。何といろいろなことに心を動かし、貴重な発見をし、大切なことを書いておいてくれたのだろうと、感謝をし、頭を下げました。

 生活綴方・作文教育の大先達であり、児童文学者でもあった、故国分一太郎さんは、「まっとうな親と、教師がいれば、まっとうな子どもが育つもんだ」とよく言われてきました。自著「リンゴ畑の四日間」(偕成社)にサインをお願いしたら、「よく見る目/よく聞く耳/よく考える頭/よくうごく/手足とからだ/これを愛する/」と、故郷山形のわらしの絵と一緒に書いてくれました。

 「茨城の子」には、そのまっとうな親(家族・周りの大人)、先生に育てられた「まっとうな子」が登場してきます。二〇〇〇年から二〇〇五年までの子どもたちです。学年・市町村は、書かれた当時のものです。

 一年生のりゅうじさんは「おふろ」でこう書きます。(前略 パパとは、たまにしかおふろに入れません。だから、ながーく入ります。そうすると、からだが、ぽかぽかして、ねむくなります。後略。)たまにしか一緒に入れないお父さんは、水でっぽうやじゃんけんなどで、精一杯りゅうじさんにつき合ってくれます。そこには、単なる仕事人間ではない、家族としての父親が存在し、その心をしっかり受け止めている子がいます。「からだがぽかぽかして(心もそうなのでしょう)ねむくなります。(心が解放されてゆったりするのでしょう)」ほんわかとした情感のただよう父と子の姿が目に浮かびます。

 二年生のりゅう太ろうさんは「百点とったぞ」を書きました。はじめて取った百点を、ばあちゃん、ママ、じいちゃん、きょう子ちゃん、れい子ちゃん(二人は姉さん?)に見せて行きます。そのたびにほめことばをもらいますが、そのたびに嬉しさを確認します。自分のことのように喜んでくれる家族の姿の中に、自分がこの人達を喜ばせ、そのことがまた、自分の嬉しさを倍加させていることを感じていきます。

 真の自尊心(よい方に成長する自分を認め、大切にする心)は、こうして育っていくのです。

 同じく二年生のけんごさんは「おかあさんがしごとをはじめたなつ」で、二年生の子がここまで…と思うくらいよく考え、想像力を働かせて、自分の生活のしぶりを変えようとしています。

 どの作品にも国分さんのサインのことばのとおりの目〜手足を持った子どもがそこに居るのです。

 今、子どもがまき込まれる事件が続発しています。どんな場合、どんな立場にあっても「子どもは被害者なのだ」と、私は思っていますが、その根っこに共通しているのは、次のものが欠けている人間が事件を起こすのだと考えます。温かみのある人間関係の中で解き放たれたゆったりした心。自分をかけがえのない大切なものだと思う自尊心。自分の言動が相手や周囲の人にどういう影響を与え、その結果どういうことが起こるかを想像したり、予想したりする力。そういうことから判断して、自分の感情や行動を制御する力。まとめて「メタ認知能力」といいますが、この力を育てるのに「読み・書き」が必要なのです。

 もう一つ考えたいのは「文章表現の豊かさは、ものの見方・考えの豊かさ・深さ」だということです。

 ふだんの生活の中から「自分にとってねうちのあること」を選び出し、そのことをよく思い出して(想起力…学習には不可欠な力)、ていねいに文章を綴っていける力です。この作業をくり返すことで、ねうちを選び出すことも、想起力も、単語・文の使い方もらせん階段を昇る様に上達していきます。例えば一年生のこうへいさんの「ぼくの、は」は、体の発達をとらえた見事な文章ですが、歯がぬける前のことを「ごはんをかんでいるとき、へんなかんじだった」と書いています。「へんなかんじ」が、もっと具体的に書けるよう指導されると、もの・ことのとらえ方がもっと細かく深く豊かになるのです。

 そんな目で読んで頂けると「茨城の子」は、まっとうな子を育てる羅針盤として、立派に働きます。

つくばみらい市立図書館館長 菊地 邦夫
 (「茨城の子」より)



おすすめ図書 2006/9

井上ひさしの
 子どもにつたえる日本国憲法


   著者 井上ひさし 絵 いわさきちひろ  発行 講談社

 
 本書の特徴は、日本国憲法の前文と第9条を「大和ことば」で語っているところにあります。
 「権利」や「義務」それに「公共の福祉」を我々は漢語で語って、それに疑問を感じていないので、和語「大和ことば」で語れば、どういう表現になるかということを考えもしません。
 小生も若いころ中学校の社会科で憲法を教えるのを楽しみでした。しかし生徒はチンプンカンプンだったでしょう。
 いま本書をみて、このような言葉で語ればよかったのだと後悔することしきりです。
 名著だと思います。

 
書評 五藤義行 (茨教組教育相談室 相談員)




おすすめ図書 2006/8

子どもの学びと自己形成

   著者 富山市立堀川小学校  発行 明治図書


 富山市立堀川小学校の研究発表会には、毎年、本県からも茨城大学への派遣研修生を中心に数名の参観者が見られる。茨城大学教育学部に在職時代に、私も、毎年春冬の二回、派遣研修生の先生たちと参観してきた。

 堀川小学校の子どもたちは、授業において教材を観点として自分の生活について深く分析的に気付き、自分の考え自分の言葉で長く語る。他の子どもたちはそれを共感的に傾聴し、温かくかかわりあって友だちを援けてその考えを発展させる。堀川小学校の子どもたちの自己についての理解、他者に対する共感的な洞察は深く、温かい。協同的な学びが実り豊かに展開されている。子どもたちの人間的な能力が素晴らしい。しかも、地域にある公立の小学校の子どもたちである。教育の可能性を現実として見せつけられる。

 堀川小学校では、ほぼ5年ごとに著書が出版されている。

 今回の著書の魅力は次の二点にある。

 第一に、教師の多忙化、保護者の価値観の多様化、少子化にともなう問題、危機管理、行政改革のあおり、学力問題、学校評価など、現在の学校運営をめぐるさまざまな問題に、堀川小学校がどのように対応しているかが語られている。堀川小学校は別天地ではない。他の学校と同様に、さまざまな困難な問題に直面し、やっかいともいえる課題を抱えている。それらに対して、堀川小学校がどのような哲学に基づき、どのような原理・原則によって対応しているのかが語られている。堀川小学校の腹を据えた取り組みに勇気付けられることだろう。

 第二に、何人かの子どもの成長が6年間にわたって追跡されている。学習活動や生活におけるその子どもが表現した事実に基づいて、その子の内面の意味世界が洞察され、それが学習活動などを通じてどのように発展して行ったかが語られている。これまでの著や堀川小学校の定期刊行紀要では、一つの単元における、あるいは1〜2年間での特定の子どもの成長が分析されているが、本著では6年間にわたって成長が追跡され分析されている。学校としての研究のあるべき姿勢、ひいては子どもを中心に据えた研究とは何かが示されている。

 各学校における研究のための教科書として推薦する。また、本著を読んで、是非、多くの先生たちに堀川小学校の授業を実際に参観してもらいたい。

書評 藤井千春 (茨城民研所員・早稲田大学)





おすすめ図書 2006/7

競争やめたら学力世界一
  フィンランド教育の成功


   著者 福田誠治 発行 朝日新聞社


 昨年1月の日教組教研北海道集会で、福田誠治氏は前年の12月に発表されたPISA調査の結果と、その調査で「世界一」になったフィンランドの教育について報告された。参加者の多くが「競争をしないこういう教育があり得るんだ」と、自分たちの考えてきた教育に近いフィンランドの教育制度に大きな感動を覚えたことは間違いない。福田さんは、昨年5月には「競争しなくても世界一ーフィンランドの教育」というブックレットを出版され大きな反響を呼んだが、この5月、新たに「競争やめたら学力世界一」を出版された。

 今回、朝日選書として出版された「競争やめたら学力世界一」は、前回のブックレットの内容をさらに掘り下げ、PISA調査で世界一になった要因が「競争」をやめたことによることを鮮明にしている。特に注目したいのは、「習熟度別指導」である。現在、文科省が「学力向上フロンティア」事業として「習熟度別指導」を推進しているが、フィンランドは1985年に完全に「習熟度別指導」を廃止し、「『異質性と集団』方式に取り替え」ることによりPISA調査において習熟度の低いレベルの子も高い点数を取っていることである。それが学力世界一の大きな要因であり、是非、習熟度別指導で悩んでいる教職員の方々にはご一読頂きたい。

 PISA調査についての分析は、一層深く行われているが、特に最終章の「世界標準の学力に向けて」において「PISAという国際学力調査は学力観の転換を意味していたと言えるだろう」として「コンピテンシー(実際的な能力)」についての説明をされ、私たちの「学力」の議論に新たな方向性を示していることを紹介しておきたい。

 また、福田さんは、昨年度3回にわたってヘルシンキで開かれた、フィンランドの教育に関する国際シンポジウム(フィンランド国家教育委員会主催、ヘルシンキ大学共催)にすべて参加されているが、その新たな研究内容も付け加えられている。

 昨年12月に開催された3回目の「PISA調査に見るフィンランド、基礎教育における学習と福祉の支援」のセミナーは「特別なニーズの教育と学校づくり」を中心テーマとするものであった。(福田さんから情報を頂き、教育総研の方々と一緒に私も参加させて頂いた)そこで報告され、実際に参観した専任の特別支援教師による補習や取り出し指導、チームティーチングなどによる学力回復などの取り組み、特別なニーズに立った教育の詳細が付け加えられていることは特筆したい。それは、日本における特別支援教育の実際を考える上でも大きな意味がある。また、実際の学校訪問の中で見てきた、一人ひとりの違いを超えた「教え合い、学び合う」授業、個人の主体性を基本にしたフィンランドの教育指導のあり方もより深められた形で言及されている。

 興味深いのは、新たな時代への挑戦として取り組まれ、増加しつつある移民の子の教育である。この点は「マイノリティの問題」としてまとめられているが、フィンランドの子と平等に扱われる一方、母語教育の保障をはじめ移民の子の教育ニーズに立った学習が保障されている。

 私が一番印象深かったのは「福祉と教育のつながり」において、フィンランドでは社会的・経済的背景の「学力」に与える影響が少ないー教育制度が教育の機会均等を実現している事実が明らかにされている点である。

 競争主義に一層傾斜を深めかねない日本の現状の中で、是非読んで頂きたい1冊である。


書評 輕部利男(茨城民研研究員)





おすすめ図書 2006/4

競争より「共創」の教育改革を
  子どもと教師と保護者・地域住民の共同参画を求めて


   著者 尾木直樹  発行 学陽書房


 現在の教育改革をめぐっては、教育をめぐる報道がとぎれない程、大きく動いています。学校も教職員も、その改革の「流れ」の中で様々な困難性を抱えながら教育実践を進めています。少し、古くなった感はありますが、教育改革の流れをつかみ、現代の教育課題を学校に近い視点で捉えて行く上で役に立つ1冊です。
 現在の教育改革の特徴について尾木氏は、次の5点に整理しています。

(1)「改革が」幼稚園・保育園から大学まですべての学校種に及んで
   大規模に進行
(2)学校種を問わず、学校現場の声を聞かず、教育の根本理念を踏ま
   えず進んでいる
(3)議論の中心軸が、教育の内容の枠組みを超え教育の構造そのもの
   へと移動した
(4)学力向上として「できる子」育成が当然視されはじめた

(5)地域間、学校間、公私間、階層間格差を増大させながら進展してい
  る「改革」

 本の構成は、第1部 これでいいのか「教育改革」、第2部 競争より「共創」の教育改革 に分かれており、第1部では、第1章で学校の多様化・特色化が競争主義を推し進め、選択の自由が保護者・地域の主体的参加による学校づくり、地域づくりに背を向けるものであり、一方におけるエリートづくり(教育格差拡大)推進につながるとの分析を行い、民間人校長登用の功罪、独立法人下での大学改革の検討も試みています。第2章では、「国家が子どもをつくり、家庭教育をリードする?」として、「教育基本法」改正の理由が見つからない現実ー逆に「愛国心」の押しつけによる主権者である国民の「内面の自由の侵害」、家庭への国家的な介入(「心のノート」)が目指されている事を明らかにし、ひとり一人が主権者である民主主義国家において醸成される愛国心とは違う「統治的」な方向が目指される危険を指摘しています。

 第2部では、現在進む「改革」ではなく、子ども、教師と保護者、地域住民の共同参画を通して、「共創」の教育を目指す「改革」が提起されます。第1章の「子ども市民を育てる」では、学力主義と「よい子」ストレスの中、子どもの自尊感情(自己肯定感)の低下と「勉強する意味が分からない」子どもの実態を指摘します。その一方で「自分が興味のあることをもっと勉強したい」中学生は8割、高校3年では9割を超える事実を指摘します。この数字から、子どもたちが「受験」「出世」のための手段的な学習から自己実現への学習へと向かおうとしている姿を読み取ります。

 さらに尾木氏は「点数の狭い意味での学力低下」を騒ぐよりも、自信と意欲が失われている現実を直視し、そこから脱出する方法として、子どもが街づくりの主体となることを通して変わる姿から子どもと大人、社会の関係性の組み替えに踏み出すことが「改革の質を飛躍させる」鍵となるのでは、との提起を行っています。
 第2章の「今教師力に自信と誇りを」では、子ども、親、地域社会、文部行政から四面楚歌的な教職員の置かれた状況が教師力を失わせ、社会変化、子どもの変化に対応する学校のシステム化、有効な実践研修等を背景に自ら教師力の回復を提起します。

 第3章「家庭と地域の子育て構造改革」では、地域の子育て共同性の消失の中で、孤立した子育てを超え地域での子育てNETWORKを提起します。
 「共創」の改革は試論的なものですが、現状の教育改革の流れを読み取る上で有効であり、基本的な改革の質を変える一つの提起として検討に値すると考え、この1冊をお薦めします。


書評 輕部利男(茨城民研研究員)




おすすめ図書 2006/3

脳のなかの倫理
  脳倫理学序説


   著者 マイケル・S・ガザニガ 訳 梶山あゆみ  発行 紀伊国屋書店


 本書は、認知神経科学の第一人者であるマイケル・S・ガザニガが、脳倫理について考察している本である。人間の脳を治療することや脳を強化することなどを含んだ最新脳科学の倫理や道徳について様々な問題点を提起し、論じている。最先端の脳科学では、脳のなかで処理されている思想や信条をデータ上で読み取ることができる段階に入りつつあり、倫理、宗教、道徳あるいは法律を語る際に欠かすことのできない分野となってきた。ガザニガは、2003年にアメリカで生まれた「脳神経倫理学」を「病気、正常、死、生活習慣、生活哲学といった、人々の健康や幸福にかかわる問題を、土台となる脳メカニズムについての知識に基づいて考察する分野」と定義し、本書で脳研究の成果を倫理的問題に応用することの是非について様々な角度から考察している。

 近年の脳科学や生物学が目覚しい発展を遂げ、脳に作用して運動能力や認知能力を高める薬が開発、利用されたり、ある特定の能力が高い遺伝子を持つ受精卵を選別したり、コンピュータが人の感情を読み取るような世界が、決してフィクションではなく現実になる時代になってきている。私たちは眠気覚ましにカフェインを摂取するという行為を何気なく行っているが、よく考えてみると化学物質で脳を覚醒させているのであって、もっと効果の高い薬をテストの直前に服用することで、テストの結果が良くすることができる。実際にアメリカでは、集中力を高める薬を試験前に服用するケースが多くみられるそうだ。スポーツ競技でのドーピング検査は非常にシビアな面がある一方、人生の方向を決定するかもしれない場面での認知能力の向上に関わる薬に関しては、なぜか許容されている。それは、私たちが一部の薬物中毒者の問題として身近に考えていないためではないだろうか。現実に脳科学や生化学に何ができ、どのような問題があるのかを、もっと真剣に考えなければならない時代に入った今、本書はその議論の土台を与えてくれる一冊である。

書評 二宮利江(民研所員・茨城大学)




おすすめ図書 2006/2

学力を育てる

   著者 志水宏吉  発行 岩波書店


 「学力低下」を指摘して、「もっとしっかり基礎学力を指導せよ」という著ではない。

 興味深いのは、「プロロ−グ」で志水氏の子ども時代が語られていることだ。志水氏は、1959年に生まれ、兵庫県西宮市で材木店を営む家庭で、祖父母ともの世代家族で育った。地元の公立小中学校を卒業している。決して教育ママの指導のもとで、幼少期から受験教育を鍛えられたわけではない。むしろのびやかな知的雰囲気の中で、人間的にも豊かにたくましく育てられている。自分のテーマを持ち、そのテーマを誠実に追求し続ける意欲と能力、そして生き方の基盤がどのような環境によって形成されるのかについて、「やっぱりそうなのか」と、妙に安心させられる語りである。

 また、「効果のある学校」、すなわち、学力の点で階層的格差を克服している学校(大阪府のある小学校が取り上げられている)についての分析から、子どもたちの温かい仲間意識に基づく集団作りが、学力保障のための根底となっていることが明らかにされている。わからないことがバカにされず、堂々と「わからない」と問うことができ、それについてみんなで考えあうことができる学習集団を形成することが、学力の保障の根底となっていると分析されている。決してドリルやプリントをやらせるだけで、また厳しく競わせることによって学力が向上するのではないことが、調査結果に基づいて述べられている。

 さらに、PISA調査やTIMSS調査の目的や実施方法などについて解説がなされている。そして、わが国の子どもたちの学力に関して、国際比較において低下したと断じることはできないことが論証されている.

 わかりやすい内容であり、学力問題をめぐる俗論に惑わされない論拠を提供する著として推薦する。


書評 藤井千春(民研所員・早稲田大学)



おすすめ図書 2006/1

フィンランドに学ぶ教育と学力

    著者 庄井良信 中嶋 博  発行 明石書店


 
1998年の学習指導要領改定、2004年に公表された国際学力調査(以下、PISA)の結果などが基になって「学力低下」の議論が盛んに行われるようになり、それは今もなお続いています。特にPISAの結果は日本の学力低下を示すものとして取り上げられると同時に、前回のPISA調査から一貫して安定的に好成績をあげたフィンランドの教育にも注目が集まりました。

 私事になりますが、PISAの前回2000年調査の時、私はドイツに在住しており今回同様好成績を挙げたフィンランドにドイツの教育関係者はすでに注目していました。この時は、日本、韓国などアジア諸国もよい成績を挙げていたのですがお会いしたドイツの教育関係者のすべてがアジアは参考にしない、フィンランドを参考にするのだといっていたのが印象的でした。アジアは詰め込みのスパルタ教育、フィンランドは違う、という認識からのことでしょう。

 3年後の今回はどうでしょう。日本自体がアジア方式ではないフィンランドの教育に大いに注目してきているのは皮肉でしょうか。フィンランドに調査に出かける日本の教育関係者も多く、多数のフィンランド教育紹介文献も出版されてきています。

 ここでご紹介する本書もその流れの一冊だといえばいえるのでしょうが、他の書物と違う点は執筆者たちが実際にフィンランドで暮らしたり、重要な仕事で長年関わってきた人たちだということです。ちょっとフィンランドに出かけて書かれた書物とはその点で一線を画する堅実で信頼できる書物だといえます。

 私個人はフィンランドの研究者エンゲストロームの理論を紹介した第3章がおもしろかったのですが、それ以外のどこを読んでも一貫しているのは、日本流の弱肉強食の競争主義、点数主義とは無縁の教育方式がそこには確かに存在し、社会全体が本気で取り組めば、それは日本でも決して不可能ではない教育方式だと思わせることです。

 単なる舶来主義ではなく、日本の教育環境の中でこのような教育の理念をどう実現していくべきなのか、そんな視点からじっくり読み、考えてみたくなる本です。

書評 本田敏明(民研所員・茨城大学)




おすすめ図書 2005/10

茨城県自然紀行
 −茨城の小さな旅−

           著者 山崎睦男 発行 東*書房

                          (* → 「さんずい」に令)

 
 本書は、市町村ごとの自然環境とそこに見られる動植物及び環境、自然風土を現地調査、取材したものである。平成大合併という歴史的な時代にあたり、ふるさとの自然の姿を記し残すことにより、旧市町村はもちろんのこと県内の自然遺産の記録(ドキュメント)に、さらに市町村ごとの小さな自然誌になっている。

 基本稿は「茨城自然紀行−84市町村の旅」のタイトルで、茨城新聞にあしかけ三年にわたり連載したものであるので、一部を目にされた方は多いと思われる。新たに加筆し全部がカラーであるのが楽しい。
 構成は、三部作からなる。第一部、「茨城県の自然」は、山、川、湖沼、海と海岸、社寺林、天然記念物等からなるが、それぞれの概観ではなく、見開き二項の解説は詳細であり、初めて分かる事が多い。
 第二部は「自然紀行」であり、県北、県央、鹿行、県南、県西に分かれているが、内容はすべての市町村が見開き二項、写真で紹介されている。しかも、常陸太田市は、旧太田、金砂郷、水府、里見各地域毎に二項の解説があり、平成大合併前の全市町村の「自然紀行」になっている。

 第三部は、「茨城の自然地案内」であり、県北、県西等、五つの地域別に、四九の案内である。

 本書の中心は第一・第二部であり、自然紀行として内容が充実している。理科、環境教育・保全や遠足等を考えていく教材として、学校、教委、生徒、公民館等で是非活用してほしい。巻末に上げられている山崎先生の図書と合わせて活用されたい。総合教育の教材、ヒントを得る点でも注目される。


書評 今橋盛勝(茨城民研所長)




おすすめ図書 2005/7

 ブックレット「競争しなくても世界一」
             フィンランドの教育

              著者 福田誠治  発行 アドバンテージサーバー

 
 
この間、フィンランドの教育が新聞をにぎわしています。2月20日の朝日新聞では、学習到達度「世界一」フィンランド「比較・競争とは無縁」の見出しでフィンランドの教育が紹介されました。また、読売新聞では教育ルネッサンスの中で9回にわたり「フィンランド報告」を連載しました。また、様々な教育雑誌で、フィンランドの教育が取り上げられています。また、教育情報では、世界各国からフィンランド詣が続いているとの報告もあります。なぜ北欧の小国が、「学習到達度世界一」を実現したのか、非常に興味深い所です。

 一月の全国教研では、福田誠治氏からデータ分析を元に日本の学力低下が低ランクに位置する子どもたちの点数の低下(OECD平均以下)によるものであること、世界一になったフィンランドでは、低ランクの子どもたちの点数も、参加国中で一番高いことが報告されました。また、PISAが目指すのが、「生徒が学んできたことを日常生活で活用する力」(21世紀の学力)ークロスカリキュラム(総合学習)的な力であり、決して文科省が言う旧来の「学力」ではないことが指摘されました。このことは、マスコミのPISA調査をめぐる「学力低下」宣伝に呼応した文科省の「学力競争」強化や「生活科・総合学習の見直し」の方向がいかに見当違いのものであるかを浮き彫りにしました。

 そういう状況の中、フィンランドに渡った福田氏は、様々な調査活動を通して世界一になった背景を的確に探り出し、「競争しなくても世界一」フィンランドの教育をアドバンテージサーバーから出版しました。
 最初に「教育」を中心に据えたフィンランドの国の発展。その発展を実現した「一人ひとりを大切にする」フィンランドの学校教育制度を紹介し、その制度を支える教職員の専門性、その専門性を生かす教師・学校の裁量権の実際を丁寧に紹介します。さらに「子どもたちはなぜよく学ぶのか」ー一人たりともおちこぼしを作らない、その取り組みを紹介します。

 現在の「高度に競争主義的な教育が発達障害を生み出している」との勧告が出されている日本の教育を捉え直す上でもお薦めしたい一冊です。

書評 輕部利男(茨城民研研究員)




おすすめ図書 2005/4

 読むと元気がわいてくる 子ども学入門
   「子どもを捉え育てる」力量を高める

                  著者 藤井千春  発行 明治図書

 
 藤井千春さんが、読むと元気がわいてくる「子ども学入門」を出版されました。
 藤井千春さんについては、改めて紹介するまでもなく「授業実践」を研究対象とし全国をくまなく歩き、県内でも数多くの学校を訪れ、教師と「子ども」について語り合いながら研究を進めておられる方です。茨城県国民教育研究所の所員としてもご活躍いただいています。

 今回ご紹介するのは、藤井さんが数多くの実践との出会いにおいて、様々な表現をする子どもの思いに共感しながら子どもの成長を豊かに実現する教師の姿を具体的な事例の中から浮き彫りにしている著書です。

 序章の「子どもを捉え生かす」ことができる教師、では「教師にとっての優秀な専門性」として「子どものちょっとした表現(発言や行動)に敏感な『感受性』」を持ち、「その子の背後・根底にあるものを含めてー詳細に具体的に理解」し「それに基づいて教育的に意義ある変容をその子に確実に生み出し得る働きかけをできることにー示される」ことがあげられています。「優秀な能力を支えるリアリズム」では「モノ、コトに対するリアリズム」(教材開発の能力)と同時に「子どもの表現からその背後・根底にあるものを洞察し、それに共感的な理解を示すと共に、それを手がかりにその子の向上的変容性に連続し得る指導・支援を実行できる」ことが求められます。もう一つの「子どもの学びを物語る能力、生み出す能力」についてですが、これは、この著書自体がその典型を示しています。

事例を読み進めて行き気がつくと子どもの表現の裏にある思いを実践者と共に読み取っていて、こうすれば子どもを受け止められる、ということを実感します。その中で、専門的な力量をつける方法も参考にして頂ければと思います。

 防人の姿に単身赴任の父親の姿を重ねる女の子ー子どもの言葉を敏感に受け止めその思いを洞察し、共感しながら価値づける中で豊かな学びを実現する教師。時によって、子どもの学習に意図的な困難性を設定し活動の価値を自覚させ、実現のために何をするか考えあう子どもたちーそのことで力を育てる子どもたち。

 このような57話が掲載され、楽しく読んで実践力をあげることができます。是非、ご一読ください。最後に、小学生が高校の教科書まで使った実践で「発展的学習」とは、単に能力の高い子どもに取り組ませる学習活動と捉えてはいけない。子どもが本気になって取り組んでいる学習活動は、子どもたちの必要感から指導要領や教科書の範囲を越えていく事例が紹介されていることもつけくわえておきます。


書評 輕部利男(茨城民研研究員)

 

おすすめ図書 2005/4

 地域をともにつくる子どもたち
   子どもの瞳が輝く授業
   茨城県長倉小学校での2年間の実践記録

           編著者 大木勝司 鈴木正気 藤井千春  発行 ルック

 
 
この実践は、茨城県国民教育研究所の第27回教育研究論文募集に応募され、最優秀学校賞を受賞した実践です。

 この実践では、地域の文化、産業の学習を通して、子どもが地域に対する自信を回復し、その地域の主体者として新しい地域の在り方を、村のNETWORKの中で考え始める姿が描き出されます。1年生から6年生までの一つひとつの実践が、都市型情報社会の中で埋もれている地域の人と人の関わりの豊かさを実感させ、みずみずしい自然と関わる喜びを実現しています。この実践は、教職員集団のていねいな地域研究と、地域の人たちとの「子育て」をめぐるNETWORKづくりに支えられていることもまた重要な点だと思います。それは、この本が、学校・教職員全体の協力にとどまらず、地域の方々の協力により構成されていることからも読み取って頂けると思います。

 1年のレッツトライ御前山焼きから6年の「戦争の中の長倉」まで、それぞれがリアルな地域学習を通して豊かな社会認識を育てていくすばらしい実践ですが、特に地域のマイナス面に目がいきがちな子どもたちが、長倉の最盛期の姿を再現して自信を深める実践、地域の変化と自動車の関係を実感的に学び合う実践は、これからの地域づくりを考えるこの実践を象徴しています。

 大木校長先生は冒頭の「産土(うぶすな)」の教育活動をふりかえって「近所の知り合いのおじいちゃんや、おばあちゃんたちも、意欲的に、繰り返し調査活動する子どもたちの前に、過去から現在まで地域社会の形成に関わってきた「証人」として登場し、学んだ子どもたち以上に「元気」を取り戻していくのを見ると、子どもたちの地域を学ぶ活動や地域での生活が、今の、そして未来の地域を明るく照らす力を持っていることを思い知らされた。そして学校の教育活動が、子どもという生活の主体者を通して、地域という生活舞台の上にのったとき、地域の学校としての役割を果たし得るのではないかという思いも強く残った。」
と述べていますが、まさに子どもの地域学習を中心にした地域の支え合う関係がこれからの地域づくりを推進する力になり得ることを実感する本です。

 学力競争が声高に言われる現在、ふるさとの豊かさを実感し未来を見つめる力を育てる教育の原点がここにあると言っても過言ではないでしょう。


書評 輕部利男(茨城民研研究員)


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