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おすすめ図書 2017/6 |
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戦争まで
加藤 陽子〔著〕
朝日出版社
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戦争の現実を知る世代が減っていくにつれて、決して戦争を繰り返してはいけないという、かつては揺るぎないものとしてあった共通の認識が薄れつつあり、安倍首相は、中国や北朝鮮を念頭に「せまりくる危機」を繰り返し訴えながら、自衛隊の存在理由を憲法9条に書き込む改憲を2020年に施行すると表明している。
本書の中で著者は、「日本国憲法の中の平和主義は、先の大戦への反省と深く結びつき、日本の社会で生み出されてきたもの」と述べ、「戦争の結果、書き換えられたこの日本国憲法を、自らの手で書き換えようとするのであれば、論理的な必然性からいって、1945年8月15日に終わった戦争について、再度、しっかりと見なおす必要がある」としている。
そして、本書は歴史学者である加藤陽子が27名の中高生たちを相手に行った授業の記録であり、質疑応答する形をとりながら、日本を戦争に導いた満州事変・日独伊三国同盟・日米開戦という大きな「選択」をする際に、相手側と自分たちの何をあえて見ようとしなかったかを、丹念に資料を読みときながら説いている。
例えば、満州事変後のリットン報告書は、最初から中国側を喜ばすものと報道され、それを前提として議論と交渉が進められた。「リットン報告書には、交渉が始まった後、日本側が有利に展開できる条件が、実のところいっぱい書かれていた」のだが、日本はこれを拒んだ。満州は日露戦争の戦果という思い込みのもと、正確な報道がないままに国論は極端に走った。
日独伊三国同盟・日米開戦の場合は、更に複雑。三者三様に思惑が異なっていた。日本政府内の意見の対立は一切報道されず、事態は速やかに変わる。同盟に大義はない。その時々の各国の利害があるのみ。ドイツとイタリアは日本の海軍力でアメリカを牽制したかった。日本はドイツが勝った勢いに乗じて東南アジアや南太平洋の英仏オランダの植民地を自分のものにしたかった。大東亜共栄圏の「大」の字には勢力圏拡大の意図が込められていた。同盟に大義はない。その時々の各国の利害があるのみ。
『戦争まで』で印象的なのは、相手国の内情まで含めて情報を充分に持った政権担当者と、自らの利権のために圧力をかける集団(死の商人・陸海軍とか)、何も知らないままに感情的に動く大衆とそれを誘導する無責任なジャーナリズム−これらの力が入りまじってことを決めてゆくというメカニズムである。
今日これらの戦前期日本の失敗を批判することはそれほど困難なことではなさそうに見える。しかしながら実は、現代(日本国憲法9条の1項、2項をそのまま残し、その上で集団的自衛権を行使する自衛隊の保持を明文化する「改憲」を2020年に施行したいと安倍首相が表明している)を生きる私たちは、後世の人々からなぜあの時の日本人はこんな選択をしてしまったのか、歴史の教訓を生かせなかったのか、といった批判を受けないとは限らないのだ。その時代の空気、見せかけだけの強い意見、その時代の勢いだけに流されてしまうと道を大きく踏み外してしまう。今私たちはまさにそういった未来を構築するための選択を迫られている。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2016/6 |
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すぐわかる!できる!アクティブ・ラーニング
西川 純〔著〕
学陽書房
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文部科学省は「アクティブ・ラーニング」の定義を次のように発表しています。「教員による一方的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。(中略)発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である」
ここまで読むと,おや?と思われる方も多いのではないでしょうか。既に学校現場では,「総合的な学習」等で取り入れられている手法だからです。何が違うのでしょうか。著者の西川純氏は次のように主張します。「文科省は,大学入試を変えることによってアクティブ・ラーニングを徹底するという,今までにやったことのないことをやろうとしている。大学入試を変えることで,小中高を変えようとしている。」
「アクティブ・ラーニング」は,新しい言葉です。その良し悪しについては,今後の展開を見守っていく他はありません。しかし今,教育の世界で最も興味・関心の高いキーワードの一つだということに異論をはさむ方はいないでしょう。なぜ,今「アクティブ・ラーニング」なのか,どのように「アクティブ・ラーニング」を実践したらよいのか,疑問や悩みを抱えている方への入門書として,本書は最適です。
書評 豊田 龍彦 (教文部長)
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おすすめ図書 2016/5 |
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先生のためのアンガーマネージメント
対応が難しい児童・生徒に巻き込まれないために
本田 恵子〔著〕
かもがわ出版
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ここ数年,学校現場では,暴力やいじめ,発達障害のある子どもへの対応で,余裕を失っているのが現状だと思います。そして,教職員には,次々と起こる問題に冷静な対応が求められています
この本は,アンガーマネージメントの理論編に加え、教職員が遭遇しやすいストレスフルな場面の事例に沿って、具体的な対応を紹介しています。
本書を読むと「現場対応はこうすればいいのか」と気づき,「これなら自分にもできそうだ」と感じることができます。気になる子の指導に困った時,子どもへの対応が安心してできる内容となっています。
※アンガーマネジメント
自分の怒りの感情やイライラをコントロールして上手く付き合う心理技術のこと
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2016/5 |
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突破論
平井 伯昌〔著〕
日経BP社
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この本は,北島康介選手等の五輪メダリストを育ててきた競泳日本代表ヘッドコーチ平井氏の指導論が書かれています。一人ひとりの特性を見抜き,その選手に合ったコミュニケーションを取り,信頼を得てから技術指導をすることが結果につながっていったそうです。
教職員のみなさんは,日々,学習指導,部活動や生徒指導等で多忙を極め,教育実践に悩んでいることと思います。平井氏にも指導者として辛い時期があり,選手を怒鳴ってしまったり,選手がやる気を出すのをただ待つだけだったりしたこともあったそうです。「子どもたちの特性を見極め,意欲を引き出したい」「自分の可能性を伸ばしたい」そんなみなさんが一歩前に進むためのヒントになると思います。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2016/5 |
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道をひらく
松下 幸之助〔著〕
PHP研究所
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この本は,松下氏が連載してきた短文の中から121篇を選んでまとめたものです。松下氏は仕事や家庭生活で悩みを抱えた時,「『心配またよし』であり,『心配や憂いは新しくものを考え出す一つの転機』である」とポジティブに考えています。筆者も,現場で悩んだ時に,この言葉に励まされました。
若い方もベテランの方も教育現場で壁にぶつかった時,「困難にぶつかったときに」「自信を失ったときに」の項を読むと立ち直るきっかけを与えてくれると思います。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2015/12 |
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教育改革はアメリカの失敗を追いかける
−学力テスト、小中一貫教育、学校統廃合の全体像−
山本 由美〔著〕
花伝社
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この国の教育は、今戦後教育改革と真逆の方向へ向かおうとしている。教育再生実行会議(第2次安倍内閣の私的諮問機関)が第1次から第6次(2013年、2014年、そして2015年)にわたって提言を公表し、それが中教審への諮問、審議、そして答申を経て拙速に国会で法制化、法改正へという異常な事態となったからである。
第1次提言のいじめ対策推進法、第2次提言の教育委員会制度の改正、つづく第3次提言では、高等教育の改革で、学長権限の拡大などによる大学自治の空洞化と財界の望む人材養成に道が開かれようとしている。さらに第4次提言の高校・大学の接続、そして第5次提言の6・3・3制の見直しへと続き、安倍政権は、戦後教育改革の見直しともいえる学制改革に着手しようとしている。これらの改革がめざしているのは、新自由主義教育改革による公教育の序列的再編を手段とした、財界が求めるグローバル人材づくりに他ならない。そして第6次提言では、トップダウンでおりてくるさまざまな施策を下支えする「学校参加」、地域の保守的再編につながりかねない全学校のコミュニティスクール化が提言されている。
2012年の大津いじめ自殺事件の報道の中で高まった教育委員会や学校の「無責任で隠蔽的な体質」への批判が、いじめ対策、「道徳教育」の強化、そして教育委員会「改革」にも最大限に利用されてきた。しかし、トップダウンのいじめ対策は教師を多忙化させ管理を強化させるものになりかねず、現在拡大中の「ゼロトレランス」(寛容ゼロ)のきびしい生徒指導を拡大させる危険性がある。この「ゼロトレランス」は、アメリカにおいてはグローバル人材の「非エリート」対策の政策として位置づけられている。すなわち、エリートを支える大量の低所得サービス労働養成とそこから外れる「犯罪予備軍」対策に用いられるのである。
また、教育委員会における首長の権限強化は、親や住民の下からの要求が教育行政に反映される道を極端に狭め、一部の人間が決めた「大綱」によるトップダウンの施策を徹底化していく。トップダウンが貫徹するような条件が整ったら、まず、教科書検定のための「方針」作成、学力テスト結果公表、そして公教育の序列的再編を招く学校統廃合が行われることが懸念される。本書は、学力テスト・小中一貫・学校統廃合といった施策の最新動向と、その背後にある新自由主義の潮流をわかりやすく解き明かす。
日本は競争をあおる前期新自由主義の段階から、停滞期を経て、グローバル資本に資源を集中するために国家が発動する後期新自由主義の段階に入っている、と著者はいう。そして、後期新自由主義教育改革を次のように定義している。「グローバル企業が求める人材養成のために、国家がグローバリズムにおけるエリート・非エリートの早期選別を目的に、学校制度を複線化し教育内容を統制するものである。エリート養成に財源を集中するために他のコスト削減を徹底し、改革を正当化するために全国学テ、結果公表、学校・自治体間競争などが利用される」。
本書の第4、5章でアメリカの教育改革をみると、後期新自由主義の段階に入っているアメリカの改革が、日本の教育改革の未来をみるうえで示唆的である。
日本がアメリカの改革動向を追いかけるのは今に始まったことではない。免許更新制や成果主義給与の導入もそうだった。アメリカで教育改革の失敗が見直され、改革の振り子が逆に動き始める頃になって、アメリカの改革を追いかける日本。アメリカの教訓を生かせというのが日本の改革の担い手に向けたメッセージだろう。著者が今年2度にわたり渡米した際の最新情報も含め、全米最先端の教育改革に向き合うグローバルシティのシカゴの人々の息づかいが手に取るように感じられる筆致は冴えている。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2015/7 |
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それでも、日本人は「戦争」を選んだ
加藤 陽子〔著〕
朝日出版社
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今年は戦後70年の節目にあたるので、安倍首相が夏に発表する談話の中身に注目が集まっている。5月初めには、欧米で活動する日本研究者187名が声明を発表し、戦後日本の平和の歩みは全世界からの祝福に値するものの、いわゆる「慰安婦」をめぐる歴史問題では、日本と東アジア諸国間に火種が残されているとした。時を同じくして5月26日から国会では、戦後日本の平和の歩みを大きく転換させる安全保障関連法案が「平和安全法制」という羊の仮面を付けて登場し、議論されている。
これら現実世界に合わせて本書を読むと、近代日本がくりかえし選んできた戦争のリアルが読みとれる。そして、過去としっかり向き合うことができれば、過去の過ちと向き合うこともできる。過去の過ちと向き合う方が、近隣諸国が日本の平和主義や人道支援に信頼感を増し、この国の大きな発展につながると教えてくれている。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2015/5 |
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若い先生必読!学校の作法
学校の元気研究会〔著〕
学事出版
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本書第1章の表題「学校は3K(きつい・きたない・危険)職場と心得るべし!」に、まずドキッとさせられます。確かに、教職員の仕事は激務です。つまづいたり、燃え尽きそうになったり、やめたくなったりすることもあるでしょう。しかし、やりがいのある素晴らしい仕事であることは間違いありません。この本では、新人教職員やこれから教職員になろうとしている方に、できるだけカルチャーショックを和らげ、無事、学校に軟着陸できるよう、学校の事情や必要な作法・心得等をわかりやすく説明しています。若い方だけでなく、中堅・ベテランの方にもおすすめします。若手教職員の指導で悩んだとき、自分の働き方を見直したいとき、初心を思い出したいときなど、ぜひ手にとってみてください。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2015/5 |
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13歳からの平和教育
浅井 基文〔著〕
かもがわ出版
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この本は、広島の中国新聞が出している『ちゅーピー子ども新聞』に連載されていたものを、1冊にまとめたものです。おじいさんと子どもたちの対話形式で、「平和の大切さ」を考えていく内容になっています。「日本国憲法に込められている3つの思いって何?」と、子どもたちは問いかけます。おじいさんは、次のように回答します。一つ目は「もう二度と戦争を起こしてはいけない」という思い。二つ目は「原爆の体験を二度と繰り返してはならない」という思い。三つ目は「力による平和から、力によらない平和へ」という思いだと。今年は戦後70年。この機会に、改めて「平和」と「憲法」について考えてみませんか。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2015/5 |
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通常学級のユニバーサルデザインZERO
阿倍利彦・授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部〔著〕
東洋館出版社
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あなたの学校、学級に次のような児童生徒はいませんか?本書では「気になる子を取り巻く子たち4タイプ」として、「問題行動を真似する子」「わざと刺激する子」「“影”でコントロールする子」「クラスのトラブルを楽しむ子」を挙げています。読みすすめていくうちに、筆者は思わず「あるある」とうなずいてしまいました。他にも、「活躍できないとすねてしまう子」「マイナスの言葉をすぐ口にする子」「周囲を同調させてしまう子」など、30のケースについて、対応のポイントを説明しています。「やんちゃな、ワイルドな子どもたちに日々向き合って、一生懸命奮闘されている先生方にぜひ役立てていただきたい」と著者は述べています。気になる子の対応に困ったとき、ページを開いてみてください。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2014/11 |
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子どもの貧困 −日本の不公平を考える
阿部 彩〔著〕 岩波書店
子どもの貧困U −解決策を考える
阿部 彩〔著〕 岩波書店
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この国では、平均的な年収の半分を下回る世帯で生活する17歳以下の子どもの割合を示す「子どもの貧困率」が、2012年に16.3%と過去最悪となった。困窮家庭や親の養育を受けられない子どもは、所得やモノだけでなく、さまざまな苦境にさらされ、希望さえも奪われている現実がある。一人ひとりの子どもにとって、貧困はどのような悲しみや生きづらさとして暮らしの中にあるのだろうか。
それは子どもの貧困率16.3%という平均値だけでなく、母子世帯の貧困率は、OECD(経済協力開発機構)やほかのデータを用いた推計においても、60%〜70%の間で推移している現実がある。貧困は現れ方が集中的でもある。
「子どもの貧困 −日本の不公平を考える」の特徴は、まず著者の地道な実証的データの集積と解析の研究成果をコンパクトに提示した点にある。著者のこれまでの学術的研究を基盤にして、子どもの貧困を社会として許すべきではない現実として明示したものである。
つぎに貧困を所得水準だけでなく、ライフチャンスや子どもにとっての必需品が奪われている現実に着目し提示していることである。同時に子どもの必需品に関する市民の支持の低さも著者の調査結果から明らかにされている。貧困観の貧困の実態を浮かび上がらせている。
さらに所得再分配(税控除と社会保障給付)の前と後で貧困率が増加する唯一の国となっている現状を踏まえて「子どもの数を増やすだけでなく、幸せな子どもを増やすことを目標とする政策」に転換する必要を提示している。
「子どもの貧困U −解決策を考える」は、前著『子どもの貧困 −日本の不公平を考える』で示された子どもの貧困状況の解決策について、国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して、政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理している。
前著が発行された5年後の2013年6月、衆議院、参議院ともに全会一致で「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が可決され、翌14年1月に施行された。同年8月、安倍晋三政権は同法に基づき「子供の貧困対策大綱」を閣議決定した。「日本の将来を担う子供たちは国の一番の宝」と、対策の重要性を強調する大綱は、子どもの貧困率16.3%(2012年)という深刻な現実を打開するのに見合った中身とはとてもいえない。
国連は、子どもの経験する貧困は、子どもの権利条約に明記されている「すべての権利の否定」と強く警告し、各国に克服を求めている。OECD加盟33カ国中でも最悪水準にある日本でこそ、子どもの貧困解消は喫緊の課題である。生半可な対策では、親から子への貧困の連鎖を断ち切り、「幸せな子ども」を増やすことはできない。本書は、社会政策の立案・実施をめざす際に指針となる最適の本である。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2014/6 |
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教育とは何か
大田 堯〔著〕 岩波書店
いじめ問題をどう克服するか
尾木 直樹〔著〕 岩波書店
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「校内暴力」「学級崩壊」「不登校」、そして今またいじめの問題が深刻化している。いじめを苦に子どもが自ら命を落とす事件が起こるたびに、どう克服すべきか、さまざまな意見で世の中が沸き立ってきた。その際に心すべき大切な視点は経験主義ではない。子どもを科学的総合的にとらえ、いかに臨床的解決をめざすかである。
『教育とは何か』 は、この視点を明確にしている書である。教育に何ができるのか。子どもと若者の未来に強い関心を抱く著者が、祖先からの子育ての知恵をも振り返りつつ現代における教育の意味と役割を問い直す。これからの「教育改革は、子どもの発達と教育とにかかわるすべての関係者が、出番を保障され、相互に協力し合う方向ですすめ」「そのため、どんなささやかな試みであっても、地域や学校ですすめられている子育て・教育をめぐる新しい協力関係、公共性をつくり出そうとする努力が、教育改革によって激励され、援助されるべきで、抑圧されては」ならないと述べ、教化、説得を教育と思い違える国家権力や政治家は元より学校文化や教職員にも自戒を促し、「教」と「育」を逆転させる発想に立ち返る必要性を説く。そして1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」は、「子どもたちを含めて、あらゆる人びとがそれぞれ自分の持ち味を引き出し合い、お互いにあてにしあてにされ合う平等な社会の創造、つまり『自己実現』と『完全参加』の原理によって人間社会をたてなおし、人間と自然との共存の秩序を地球上に創造しようとするもの」であり「世界は実際そういう方向をめざして胎動を始めている」ことが日々の動きの中から読みとれると熱く期待を寄せる。
2冊目の『いじめ問題をどう克服するか』は、今日のいじめの背景を分析、いじめを防止するために学校、家庭、社会がすべきことを具体的に提言する。第1章では、いじめが、これまで日本社会で、どのように問題化されてきたのか、文部省・文科省の対応はどうだったのか、などについて歴史的に振り返る。第2章では、今日のいじめの特徴について分析する。第3章では、2012年の大津事件を具体的な事例を取り上げて検証する。第4章では、いじめの深刻化を食い止めるために、国や地域、学校でどういう取り組
みが行われているのかを考察する。第5章では、いじめ問題を克服するために何が必要かを具体的に提言する。著者は「いじめ問題に向き合うことを契機に、私たち大人社会を改めて点検し、子どもたちを未来を切り拓くパートナーと位置づけ、その知恵や力を借りながら、豊かな社会を築いていくことが大切なのです」と訴える。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2014/5 |
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ほんとうの家族支援とは
-子どものまわりにいるすべての先生方へ-
上原 文〔著〕
鈴木出版
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「子どもに接する職業の人で,家族との連携に困っていない人は今,いないのではないでしょうか。」と,著者の上原文さんは語り始めます。確かに,現場の教職員にとって,今,一番難しい課題と言えるかもしれません。可愛いイラストに惹かれながら読み進めていくうちに,家族との連携のあり方について考え,自分の子育てについて振り返る機会をもつことができます。書籍や映画からの名言・名場面についてのコラムも充実。
副題にある通り,「子どものまわりにいるすべての先生方」に読んでいただきたい一冊です。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2014/5 |
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発達障害の子どもを二次障害から守る!
あったか絆づくり
-問題行動を防ぐ!ほめ方・しかり方,かかわり方-
岩佐嘉彦 松久眞美〔著〕
明治図書
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この本は,発達障害の子どもを二次障害から守るために,弁護士と教師のコラボレーションで書かれた,いまだかつてないユニークな著書です。特別支援の必要な子どもと関わる機会は,年々増加する傾向にあります。実践例が満載。子どもへのかかわり方の例が,わかりやすく図解説明されており,すぐに使えるワークシート等も掲載されています。子どものほめ方・しかり方で悩んだ経験のある方には,特におすすめの一冊です。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2014/5 |
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教育問題はなぜまちがって語られるのか?
-「わかったつもり」からの脱却-
広田照幸 伊藤茂樹〔著〕
日本図書センター
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<この本は,いわば「へそまがりのすすめ」のような本です。「教育問題」と聞くと,すぐに「大変だ」「深刻だ」「急いで対策を」というふうな議論になってしまいそうですね。でも,それはあわてすぎ。考えるべき点がいっぱいある。この本を読んでくださったみなさんは,「ちょっとまてよ」というふうな感性をもつことができるようになっていると思います。> 〜本書「あとがき」より〜
この文章にピンときたあなた。教育問題について,一言もの申したいあなた。教育に対する誤った報道に怒りを感じているあなた。ぜひ一度,手にとってみてください。
書評 図書館運営委員
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おすすめ図書 2013/12 |
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子ども理解 −臨床教育学の試み
田中 孝彦〔著〕 岩波書店
子どもの声を社会へ −子どもオンブズの挑戦
桜井 智恵子〔著〕 岩波書店
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子ども理解 - 臨床教育学の試み
田中 孝彦【著】岩波書店【刊】
政府・文部科学省は、この国の子どもたちの状態を「生きる力の衰弱」「秩序意識・規範意識の希薄化」「学力・学習意欲の低下」と否定的に断定する子ども観を前提に「教育改革」を推進している。社会・学校の当然の秩序を守れない、規範意識の希薄な子どもたちが出現しているから、強い力で守るよう要求し、規範意識を持たせる厳しい教育が必要である。他者との関係を結ぶ能力が不足しているから、「コミュニケーション能力」を鍛えねばならない。学力は競争のなかでこそ伸びるものであるから、子どもを厳しい競争的環境において鍛えねばならない。読み、書き、算は有無を言わさぬ反復訓練によって、刻み込んで教えねばならないといった断定の仕方である。乱暴で単純な「厳しさ」と「競争」を強調する傾向は、為政者の側からだけではなく、教師たちにも広がってきている。
だが、教育は、子どもたち一人ひとりの生存・成長・学習を支える営みである。その子どもたちの状態を外側からこれほどダメになっていると一方的に決めつけておいて、「教育改革」によって子どもたちに「生きる力」を吹き込もう、「秩序意識・規範意識」「コミュニケーション能力」「学力」を刻み込もうとしてみても、そんなことはそもそも不可能なのではないか。そのような発想で、血の通った子育てや教育の改革を構想することが果たしてできるのか。
著者は、こうした疑問を抱き続けながら、一人ひとりの子どもと直接に対話をする機会をできるだけ持つようにして、彼らが自らの生活と人生をどう感じ、考えているかを聴きとる調査を臨床教育学の基礎的作業として重ねてきている。本書では、そうした子どもたちの声を聞くことを通じて、子どもたちが育っていく過程で直面している問題と、彼らの生存・成長を支える援助・教育の基本的な課題を次のように整理しながら、小手先のハウ・ツーを探すのではなく、人間発達の原点に立ち戻って考えることを指し示している。
第1に、子どもたちの情動・感情の発達を受け止め、意味ある反応を返す。
第2に、子どもたちの友だち関係づくりを支えていく。
第3に、子どもたちの性をめぐる不安や問いにつき合う親・教師・大人が、彼らの前に現れることが必要である。
第4に、若者たちの職業をめぐる不安を共に考えることが重要になっている。
第5に、子どもたちの問いに応える学習の内容と機会を、社会と学校につくり出していく。
本書には、さらに、「子ども理解」をキーワードに「地域に根ざし、世界と向き合う」「教師像の問い直し」「教師教育改革」など、ありうべき教育の方向性と希望が指し示されている。
子どもの声を社会へ - 子どもオンブズの挑戦
桜井 智恵子【著】岩波書店【刊】
兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」は、子どもの小さな声に耳を傾け、関係者をつなぎ問題の解決を図り、時には制度改善にまでつなげる。大学教員で教育学分野のオンブズパーソンである著者は、この希有な公的制度の中で、子どもたちの息詰まる状況をつぶさに目にして、その問題解決の思想を紹介し、問題の核心を明らかにして、これからの社会の可能性を提案する。「子どもの気持ちを無条件に受容する大人の存在があると、それは市民社会の質を保つためになかなかよい。聞かれにくい子どもの声は、実は社会にとって大事なことをつぶやいてくれていることがある。忙しい大人たちが見落とし見失っている社会の側面を、そっと教えてくれることもある。」と著者は言う。子どもの人権オンブズパーソンとは、「子どもの声をまず聞く大人の存在を保障した制度」なのだ。著者は、さらに「子どもが発した声は、私たちの暮らし方や働き方がつくっている構造を変えてほしいという要望でもある。まず成長ありきの、人を分断する経済成長の考え方を、持続可能な社会への柔軟な発想へと転換してほしいという叫びなのである。それは、子どもからの社会的異議申立てなのだ」と述べている。本書は、小さな声を社会へつなぐ手引書である。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2013/6 |
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教育の豊かさ 学校のチカラ−分かち合いの教室へ
瀬川 正仁〔著〕 岩波書店
尾木ママの「脱いじめ」論−子どもたちを守るために大人に伝えたいこと
尾木 直樹〔著〕 PHP研究所
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現在のこの国の多くの子どもたちは、人と人との関係を切り裂き敵対させる力が強く働いているこの社会に生まれ落ちて、生育の過程でさまざまな「傷」を負い、「いらだち」「むかつき」「不安」「恐れ」といった生活感情を溜めている。それらは、なにかのきっかけがあると、自分や他人を傷つけるような仕方で無方向に爆発してしまうほどに溜まっている。同時に、多くの普通の子どもたちが、日常生活の中で、「いらだち」「むかつき」「不安」「恐れ」を溜めながら、「毎日をどう過ごせばよいのか」「このままで大人になっていけるのか」「なんのために学校へ行くのか」「「競争が幸福につながるのか」「自分が大人として生きる地域、日本や世界、地球はどうなっているだろうか」という根本的な問いを抱かざるを得なくなってもいる。
この間、この国の「教育改革」は、子どもたちの状態を「生きる力の衰弱」「秩序意識・規範意識の希薄化」「学力・学習意欲の低下」と否定的に断定し、「厳しさ(厳罰主義の徹底・道徳教育の強化・学習指導要領の押しつけなど)」と「競争(学力テスト・学校評価・教員評価・学校選択制などの成果主義)」を軸に推進されてきた。このような乱暴で単純な子どもたちへの対応は、子どもたちが求めているものとは明らかにすれちがっている。
『教育の豊かさ 学校のチカラ−分かち合いの教室へ』では、文部科学省が「学校」と認めている教育現場で、すべての子どもの学ぶ権利の保障と、その学びの質の向上にとりくむ様子が紹介されている。「学校」の中には、刑務所の中の学校や健康学園、あるいは夜間中学校など、特別な事情を抱える人たちのための教育現場もある。こうした学校では、国が定めた学習指導要領どおりの授業は成り立たない。その結果、学校も教師も目の前にいる児童生徒たちに何が必要で、自分たちに何ができるのか、学びの質と平等の同時追求のビジョンをもって、それを実現するため奮闘努力している。そこからは、日頃見過ごされがちな「教育」のもつ豊かさや、「学校」が本来持っているはずの力が伝わってくる。
『尾木ママの「脱いじめ」論』は、子どもを守るための大人への提案である。
今のいじめは心を深く傷つけるほど陰湿で残忍である。しかも今日の被害者が明日の加害者になるなど、被害者と加害者の立場が流動的、かつ容易に入れ替わる。どうすれば子どもを守れるのだろうか。本書は「いじめの現状」「いじめを取り巻く教育現場の病」「どんな子がいじめをするのか」「いじめからわが子を全力で守る」「本気でいじめをなくすための愛とロマンの提言」など、著者の長年の経験に基づく提案である。
いじめは、子どもたちが自らの抱える不安(生きづらさ)や自己肯定感を取り戻そうとする気持ちの屈折したかたちの表れでもある。子どもたちの不安や葛藤が、いじめとなって表れた段階から丁寧に関わり、いじめを子どもたち自身の手で解決していく力を育てる日常的な取り組みが必要である。
書評 谷口 公(館長)
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おすすめ図書 2012/12 |
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学校見聞録
―学びの共同体の実践―
佐藤 学〔著〕
小学館
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近代の学校は、国民国家の統合と産業主義社会の形成を推進力として成立してきたのだが、冷戦構造崩壊後のグローバリゼーションとポスト産業主義社会の進展によって、その二つの基盤は突き崩され、新しい時代に対応した学校〈21世紀型の学校〉への転換が進行している。
ベルリンの壁崩壊後の各国において、「21世紀型の学校」は、どのように構想され政策化されてきたのだろうか。その展開は各国諸地域で一様ではなく、複雑で多様な展開を遂げている。しかし、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国の先進諸国のナショナル・カリキュラムをとおして見ると、次の4点が共通した「21世紀型の学校」の成立基盤となっている。
(1)知識基盤社会への対応
(2)多文化共生社会への対応
(3)格差リスク社会への対応
(4)成熟した市民社会への対応
「21世紀型の学校」は、さらに「質(quality)と平等(equality)の同時追求を根本原理として構成されている。ポスト産業主義社会に突入している先進諸国の教育改革においては、「質と平等の同時追求」が教育改革の成否を規定する根本原理となっている。この根本原理を端的に示したのが、OECDによって2000年から3年ごとに実施されてきた国際学力調査(PISA調査)であった。PISA調査によって世界トップレベルと評価されたフィンランド、カナダ、オーストラリアなどの諸国における教育の成功は、「質と平等の同時追求」によるものである。
著者は、「行動する研究者」として、全国各地の幼稚園、小学校、中学校、高校、特別支援学校を訪問し、教師と共同して教室と学校を内側から改革する挑戦を行ってきた。教室においては「活動的で協同的で反省的な学び」の実現、校内には教師同士が育ち合う「同僚性」の構築、学校と地域の連携においては保護者が授業の創造に参加する「学習参加」の実践を推進し、「学びの共同体」という学校の未来像を提起し、内側から学校改革を推進している。その実践の数々(教育現場の動態)が詳細に記述されているのが「学校見聞録−学びの共同体の実践」である。
書評 谷口 公(館長)
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